不動産の有償取得と相続取得――付随費用の弁証法

税務会計

※ここでいう「譲渡による取得」は、通常の第三者からの「売買による取得」を前提とします。贈与・交換の場合は課税関係が異なります。

結論

売買による取得は、仲介手数料・不動産取得税・高い登録免許税など、取得時の付随費用が広く発生します。

これに対して相続取得は、売買特有の費用がなく、不動産取得税も原則として課されず、登録免許税率も低いため、不動産単体でみれば取得コストは軽くなります。ただし、相続税、税理士報酬、遺産分割費用など「財産承継全体の費用」が発生し得ます。

したがって両者の差は、単なる「高い・安い」ではなく、

売買は、市場取引を成立させるための費用
相続は、権利関係と相続税を確定させるための費用

という質的な相違にあります。

正――売買取得は「新たな価値の取得」である

売買では、買主が自らの意思で新たな不動産を取得します。そのため、取得対価だけでなく、取引を仲介し、契約を成立させ、資金を調達し、権利を公示するための費用が発生します。

費用売買による取得
売買代金発生
仲介手数料通常発生
売買契約書の印紙税発生し得る
登録免許税所有権移転登記に発生
司法書士報酬通常発生
不動産取得税原則として発生
固定資産税等清算金契約慣行として発生しやすい
融資手数料・保証料借入れを利用する場合に発生
抵当権設定費用融資を利用する場合に発生
測量・境界確定費用契約条件等により発生
建物検査・鑑定費用必要に応じて発生

将来この不動産を売却するとき、購入代金、購入手数料、設備費、改良費などは、原則として譲渡所得計算上の取得費になります。建物部分については、減価償却費相当額を控除した残額が取得費になります。(nta.go.jp)

つまり売買取得の付随費用は、単なる消費ではなく、一定範囲で取得価額又は将来の譲渡所得計算に繰り延べられる性質を持っています。

反――相続取得は「被相続人の地位の承継」である

相続では、相続人が市場から不動産を買うわけではありません。したがって、売買代金、仲介手数料、売買契約書の印紙税、通常の融資費用などは発生しません。

また、相続による形式的な所有権移転は、一般的な不動産取得税の課税対象になりません。

一方、次のような相続固有の費用が生じます。

費用相続による取得
不動産の購入代金発生しない
仲介手数料発生しない
不動産取得税原則として非課税
相続登記の登録免許税発生
司法書士報酬依頼した場合に発生
戸籍・住民票・評価証明書等発生
相続税基礎控除を超え、納税額がある場合
税理士報酬相続税申告を依頼した場合
鑑定・測量費用評価・分割等で必要な場合
弁護士・調停費用遺産分割でもめた場合
代償金代償分割を行う場合

登録免許税の本則税率は、売買による所有権移転が固定資産税評価額の2%、相続による移転が0.4%です。売買には時限的な軽減措置が適用される場合がありますが、それでも相続登記の税率は基本的に低く設定されています。(nta.go.jp)

ただし、相続税や代償金は金額が大きくなることがあります。そのため、

不動産の移転費用は相続の方が軽いが、財産承継全体の負担まで必ず軽いとは限らない

という反転が起こります。

止揚――両者の本質的な差異

両者は「取得時に何円払うか」だけでなく、「取得費をどのように承継するか」という点でも対照的です。

売買の場合

買主が実際に支払った購入代金と取得関連費用を基礎として、新しい取得費が形成されます。取得費=購入代金+取得に直接要した費用-建物の減価償却費相当額取得費 = 購入代金+取得に直接要した費用-建物の減価償却費相当額

相続の場合

相続税評価額が、そのまま譲渡所得上の取得費になるわけではありません。原則として、被相続人の購入代金や購入手数料などを基礎とした取得費を相続人が引き継ぎます。

さらに、相続人自身が支払った相続登記費用や登録免許税なども、一定の場合には取得費に含まれます。(nta.go.jp)

したがって、例えば相続税評価額が5,000万円でも、被相続人の取得費が500万円しかなければ、相続後の取得費が自動的に5,000万円へ引き上げられるわけではありません。この点が、相続不動産を売却するときの最大の注意点です。

相続税の「取得費加算」という調整

相続取得には、被相続人の古い取得費を引き継ぐため、売却益が大きくなりやすいという問題があります。

そこで、一定期間内に相続財産を譲渡した場合には、その財産に対応する相続税額の一部を取得費に加算できる特例があります。

主な要件は、

  • 相続又は遺贈による取得であること
  • 取得者に相続税が課税されていること
  • 相続開始日の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すること

です。一般には「相続開始から3年10か月以内」と表現されます。(nta.go.jp)

これは、相続税と譲渡所得税が連続して課される負担を緩和する制度ですが、相続税の全額が加算されるわけではありません。

事業用不動産の場合の注意

個人が賃貸用不動産など業務用資産を取得した場合、登録免許税や不動産取得税は、不動産所得の必要経費に算入できることがあります。必要経費にした金額を、将来売却時に再び取得費として控除することはできません。(nta.go.jp)

したがって、付随費用は次の三分類で考える必要があります。

  1. 直ちに必要経費になるもの
  2. 土地・建物の取得価額に算入されるもの
  3. 税務上控除できない家事費・相続手続費用

法人による取得では会計・法人税上の取扱いがさらに異なり、購入手数料などは原則として取得価額に算入されますが、登録免許税や不動産取得税などは取得価額に算入しない処理が認められるものがあります。(nta.go.jp)

総括

売買取得では、購入代金を中心として、市場取引を成立させるための付随費用が外側に積み上がります。

相続取得では、対価や仲介費用が消滅する一方、被相続人の取得費・取得時期・含み益まで承継します。さらに、相続税や遺産分割費用という別種の負担が現れます。

したがって両者は、次のように止揚できます。

売買は「現在の時価を支払って、取得費を新しく作る取引」である。
相続は「取得対価を支払わず、過去の取得費と含み益を引き継ぐ承継」である。

相続は取得時の現金負担が少ない反面、将来売却時には、低い取得費による譲渡所得税が潜在的債務として顕在化し得ます。ゆえに比較すべきなのは取得時の諸費用だけではなく、相続税と将来の譲渡所得税を含めた「保有から売却までの総費用」です。

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