――同一代表者による利益相反取引と一人株主会社の実務
A社とB社の代表取締役が同一人物であり、さらに、その代表取締役が両社の株式をそれぞれ100%保有しているとする。
このような完全な一人会社同士で、税務会計ソフトの利用料を50%ずつ負担する契約を締結する場合にも、株主総会議事録などを作成する必要があるのだろうか。
結論からいえば、全株主の同意が明らかな一人会社では、正式な株主総会決議が絶対に不可欠とは限らない。しかし、A社・B社それぞれについて、簡単な「株主同意書」または「みなし株主総会議事録」を残すのが安全である。
1.同じ100%株主でもA社とB社は別法人
代表取締役と株主が同一人物であっても、A社とB社は法律上、別の法人である。
それぞれが独立して、次の権利義務を持っている。
- 契約を締結する
- 財産を所有する
- 費用を負担する
- 法人税・消費税を申告する
- 債権・債務を計上する
- 取締役に対して責任を追及する
「どちらも自分の会社だから、費用をどちらが負担しても同じ」ということにはならない。
A社がB社の費用まで負担すれば、A社からB社への利益供与や寄附金と評価される可能性がある。また、A社の株主とB社の株主が同じでも、両社の債権者は同じとは限らない。
したがって、両社間の費用負担は、第三者間の取引と同様に一定の合理性を持たせる必要がある。
2.同一人物が両社を代表する取引
A社とB社の代表取締役が同一人物の場合、その人物は一つの契約について次の二つの立場を兼ねる。
- A社を代表してB社と契約する立場
- B社を代表してA社と契約する立場
例えば、税務会計ソフトの利用料を50%ずつ負担する契約では、同一人物が契約書のA社側とB社側の両方に署名することになる。
このような取引は、会社法356条が規定する利益相反取引に該当する可能性がある。
会社法は、取締役が自己または第三者のために会社と取引する場合、取引の重要な事実を開示し、会社の承認を受けることを原則としている。
承認機関は、会社の機関設計によって異なる。
| 会社形態 | 原則的な承認機関 |
|---|---|
| 取締役会非設置会社 | 株主総会 |
| 取締役会設置会社 | 取締役会 |
多くの小規模な一人会社は取締役会非設置会社であるため、原則として株主総会の承認対象となる。
3.そもそも誰と誰の利益が対立するのか
今回のケースでは、A社とB社の代表取締役だけでなく、両社の100%株主も同一人物である。
したがって、A社とB社のどちらに費用を負担させても、最終的な株主の財産的利益は同じ人物に帰属する。少数株主の利益が侵害される問題も生じない。
この点から考えると、一般的な利益相反取引とは状況が大きく異なる。
通常、利益相反取引の承認制度は、取締役が自分や第三者の利益を優先し、会社や株主に損害を与えることを防止するために設けられている。
ところが、一人株主会社では、その唯一の株主本人が取引内容を把握して同意している。保護されるべき株主が自ら取引を認めているため、形式的な株主総会を開催する実益は小さい。
4.全株主の同意があれば正式決議は不要か
判例上、株主全員が利益相反取引に同意している場合には、正式な株主総会や取締役会の承認を欠いていても、そのことだけを理由に取引が否定されるとは限らないと考えられている。
一人株主会社では、その一人の同意が「全株主の同意」になる。
そのため、唯一の株主である代表取締役が取引内容を完全に理解し、A社・B社双方の100%株主として同意しているなら、現実に臨時株主総会を開催しなければ契約が無効になる、というほどではない。
ただし、「本人が頭の中で同意していた」というだけでは、後から証明することが難しい。
そこで、正式な会議を開く代わりに、書面による同意を残すことが重要になる。
5.税務上重要なのは「いつ決めたか」
税務会計ソフトの利用料が年間20万円で、A社とB社が10万円ずつ負担するとする。
税務上、問題になりやすいのは、負担割合そのものだけではない。決算間際になって利益の多い会社から利益の少ない会社へ費用を移したのではないか、という点である。
例えば、A社に利益が多く発生した年だけ、次のように処理したとする。
本年はA社の利益が多いので、ソフト利用料20万円をすべてA社の費用にする。
反対に、翌年はB社の利益が多かったため、すべてB社負担に変更したとする。
このような処理は、利用実態ではなく、法人税負担を調整するために費用を付け替えたと疑われる可能性がある。
したがって、次の内容を事前に決めておく必要がある。
- どのソフトを共同利用するか
- 両社がどのように利用するか
- 負担割合を何%とするか
- A社が一括払いするか
- B社がいつまでに精算するか
- 利用状況が変わった場合の見直し方法
これらを契約書と株主同意書に残せば、決算時の恣意的な利益調整ではないことを説明しやすくなる。
6.一人株主でも書面を作る意味
両社とも100%株主が同じであれば、株主間の紛争が発生する可能性はほとんどない。
それでも書面を作る意味はある。
税務調査への対応
税務署に対して、両社の費用負担が事前の合意に基づいていることを示せる。
会社間取引の透明化
A社がB社に利益を供与したのではなく、合理的な共同費用の精算であることが明確になる。
将来の株式譲渡や相続
現在は同じ人物が100%保有していても、将来、相続や株式譲渡によって株主構成が変わる可能性がある。
金融機関や税理士への説明
関係会社間の立替金や未払金について、発生原因と取引条件を説明しやすくなる。
同一人物による双方代表の確認
同一人物がA社・B社双方を代表して契約することを、両社の株主として承認していた事実を残せる。
7.正式な株主総会を実際に開催する必要はない
一人株主会社であれば、株主と代表取締役が一人しかいない。会議室に集まり、自分一人で議長と株主を兼ねて議事を進める必要性は乏しい。
実務上は、次のいずれかで対応できる。
- 簡単な臨時株主総会議事録を作成する
- 書面による株主同意書を作成する
- 会社法319条の株主総会決議の省略、いわゆる「みなし決議」として記録する
もっとも、会社法319条の正式なみなし決議として処理する場合は、取締役からの提案と、議決権を行使できる株主全員の書面または電磁的記録による同意が必要となる。
一人会社では、提案する取締役と同意する唯一の株主が同じ人物になるが、役割を区別して書類を作成すればよい。
少額の共通経費であれば、実務上は一枚の株主同意書でも相当な証拠になる。
8.A社とB社でそれぞれ書類を作る
A社とB社は別法人なので、原則として、それぞれの会社について承認記録を残す。
例えば、次の二つを作成する。
- A社の唯一の株主として、A社がB社と契約することを承認する書面
- B社の唯一の株主として、B社がA社と契約することを承認する書面
内容が同じでも、会社ごとに一通ずつ作成し、それぞれの会社の書類として保管する方が整然としている。
一つの書面に次のように記載することも考えられる。
私は、株式会社Aおよび株式会社Bの唯一の株主として、両社間の税務会計ソフト利用料に関する費用負担契約を承認する。
しかし、会社法上の意思決定が各社で行われたことを明確にするためには、A社用とB社用を分ける方が望ましい。
9.株主同意書に記載する内容
株主同意書には、少なくとも次の事項を記載する。
- 取引の相手方
- 対象となる税務会計ソフト
- 利用料の総額または計算方法
- A社・B社の負担割合
- 一括払いをする会社
- 立替金の精算期限
- 通常の精算期間は無利息とすること
- 同一人物が両社を代表すること
- 利益相反取引として承認すること
- 承認年月日
例えば、次のような内容である。
株主同意書
株式会社Aの唯一の株主である私は、株式会社Aと株式会社Bとの間で、
税務会計ソフト利用料に関する費用負担契約を締結することに同意する。
1.対象ソフト
NTTデータ「達人シリーズ」
2.費用負担割合
株式会社A 50%
株式会社B 50%
3.支払方法
株式会社Aが利用料を一括して支払い、株式会社Bの負担分を
立替金として処理する。
4.精算条件
株式会社Bは、立替金精算書を受領した日の属する月の翌月末日までに
株式会社Aへ支払う。通常の精算期間については利息を付さない。
5.利益相反取引の承認
本取引を会社法第356条に基づく利益相反取引として承認し、
同一人物が株式会社Aおよび株式会社Bの双方を代表して
契約を締結することを承認する。
令和○年○月○日
株式会社A 唯一の株主
住所:
氏名: 印
B社についても、会社名と立場を変更した同様の書面を作成する。
10.少額の取引なら包括承認も検討できる
税務会計ソフト利用料、新聞購読料、共通事務用品などについて、毎月または毎年、同じ条件で取引する場合、取引のたびに承認書を作るのは煩雑である。
その場合は、対象と上限を明確にしたうえで、一定期間の取引を包括的に承認する方法が考えられる。
例えば、次のように定める。
令和○年○月○日から令和○年○月○日までの間、A社とB社が共同利用する税務会計ソフトについて、両社が50%ずつ負担する。年間負担額の上限は各社○万円とする。
ただし、取引内容や負担割合が大きく変わった場合は、改めて承認を取り直すべきである。
11.議事録がないと直ちに税務否認されるわけではない
株主総会議事録がないことだけを理由に、税務会計ソフトの費用が直ちに損金不算入になるわけではない。
法人税上の中心的な問題は、次の点にある。
- 実際に両社が利用しているか
- 負担割合に合理性があるか
- 実際に精算されているか
- 証憑が保存されているか
- 決算時の利益調整ではないか
- A社からB社への無償の利益供与ではないか
したがって、費用負担契約書、請求書、立替金精算書、振込記録などがあれば、議事録がないという形式的な理由だけで処理全体が否定される可能性は高くない。
それでも株主同意書を一枚追加しておけば、会社法上の承認と税務上の事前合意を同時に補強できる。
結論
A社とB社の代表取締役が同一人物であり、その人物が両社の100%株主であっても、A社とB社は別法人である。
したがって、両社間の費用負担契約は会社間取引として整理しなければならない。また、同一人物が両社を代表するため、形式上は利益相反取引に該当する可能性がある。
もっとも、一人株主会社では唯一の株主が取引内容を把握して同意しており、全株主の同意が存在する。そのため、実際に臨時株主総会を開催しなければ取引が成立しないというほどではない。
実務上の最適解は、次のとおりである。
A社・B社それぞれについて、簡単な株主同意書またはみなし株主総会議事録を一通ずつ作成する。
これは単なる形式ではない。両社の費用負担が事前に決められた合理的な取引であり、決算時の利益調整や無償の利益供与ではないことを示すための証拠になる。
一人会社だから何も記録しなくてよいのではない。一人会社だからこそ、会社と個人、A社とB社の境界を、簡潔な書面によって明確にすることが重要なのである。

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