経営者が自社の賃金支払いのために親族から資金援助を求めるという状況には、事業の存続と家族の負担とのジレンマが含まれています。「労働者の給料を減らすか解雇してから金を無心するのが筋だ」という発言に対しては、複数の視点から検討する必要があります。
テーゼ(命題)
小規模な事業では、経営者が個人資産や親族の援助に頼って資金繰りを行うことがあります。親族の支援は無条件の義務ではないので、家族に負担をかけないためには雇用コストを下げるべきだという考え方が生じます。特に家族経営の場合、同居の親族のみを雇っている事業には労働基準法の適用がありませんが、他人を雇えば法の適用対象になります。経営が悪化した際に人件費を抑えることは、企業の存続という観点から一定の説得力を持ちます。
アンチテーゼ(反命題)
しかし、日本の労働法は賃金支払いを強く保護しています。賃金の減額は労働者の同意がなければできず、就業規則の変更や労使協約の締結を経て合理的な手続を踏まなければなりません。労働者の賃金を未払いのまま親族が肩代わりすることは法制度上の支援ではありませんし、経営悪化を理由とする解雇(整理解雇)も①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③選定基準の合理性、④手続の妥当性という要件を満たさなければ無効となります。また、労働者に支払えない賃金が発生した場合には、労働者健康安全機構が未払賃金の一部を立替払いする制度があり、これは労働者を守るための仕組みです。親族から金銭を無心する前に、国の制度や助成金(雇用調整助成金など)によって従業員の雇用維持を図る方法を検討すべきです。
ジンテーゼ(総合)
弁証法的な思考は、二つの立場を対立のまま残すのではなく、双方の合理性を認めたうえで新しい解決策を探ることにあります。事業の継続と家族の負担軽減を両立させるためには、親族への依存や労働者の犠牲に頼らない経営改善策が必要です。例えば、経営者は従業員と率直に対話し、短時間勤務や別業務への配置転換など従業員の同意を得たうえで雇用を維持する方策を模索できます。国や自治体の助成制度を活用する、不要不急の経費を削減する、事業自体を縮小・売却する、あるいは廃業を含めた再建計画を練るなど、家族や従業員を含む関係者と協調しながら対応することが重要です。
このように、単純に「賃金を減らすか解雇してから親族に頼る」のではなく、労働法の理念や家族の関係を考慮しつつ、法に沿った代替策を模索することこそが弁証法的な解決といえます。

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