ゴルカンの「金」は本当に安全資産なのか

――現物なき金価格連動のリスクを弁証法により論じる

明治安田ゴールド/オール・カントリー株式戦略ファンド、愛称「ゴルカン」は、世界株式と金を組み合わせ、相場環境に応じて金の配分を増減させる投資信託である。

ただし、投資家が保有するのは金地金でも、金地金を直接保有するETFでもない。ゴルカンは、SGイシュアーが発行する円建て担保付社債を主要投資対象とし、その社債を通じて世界株式と金に実質的に投資する構造を採用している。明治安田アセットマネジメントの商品説明

したがって、ゴルカンの金部分は、平常時には金価格と連動するものの、現物裏付け型金ETFと同じ意味で金地金そのものに裏付けられているわけではない。この違いは、どのようなリスクを生むのだろうか。

正――ゴルカンの金は「信用に依存する金」である

現物裏付け型金ETFでは、原則として発行済み口数に対応する金地金が保管機関の金庫に保管される。

個人投資家が直接その金地金を引き出せるとは限らないものの、ETFの価値を支える最終的な資産は金地金である。金価格が上昇すれば保有地金の評価額も上昇するという、比較的単純な構造を持つ。

これに対して、ゴルカンの投資家が保有する経済的な権利は、おおむね次の連鎖によって成立している。

投資家
→ 投資信託
→ SGイシュアー発行の担保付社債
→ ゴールド/オール・カントリー株式戦略
→ 金ETF・金先物などによる金価格への連動

つまり、投資家は「金」を直接保有するのではなく、金価格を参照して価値が変動する金融契約を保有している。

この構造では、金価格そのものとは別に、次のリスクが加わる。

1.発行体の信用リスク

担保付社債の発行体であるSGイシュアーの信用力が大幅に低下したり、債務不履行が発生したりすれば、金価格が上昇していてもファンドの基準価額が下落する可能性がある。

運用会社自身も、発行体の経営不振・倒産・債務不履行によって基準価額が大幅に下落する可能性を明記している。ゴルカンの投資リスク

「金の価格リスク」に加えて「金融機関の信用リスク」を負う点が、現物保有との決定的な違いである。

2.契約・カウンターパーティーリスク

ゴルカンの価値は、担保付社債、デリバティブ、金先物、金ETFなど、複数の金融契約によって構成される。

取引相手が契約を履行できなくなれば、金価格との連動が一時的または恒久的に崩れる可能性がある。担保が設定されていても、その評価額、換金性、回収時期まで完全に保証されるわけではない。

3.戦略が機能しないリスク

ゴルカンは、単純に世界株式と金を一定割合で保有する商品ではない。市場局面に応じて金への配分を変更するルール型戦略である。

そのため、

  • 金価格が上がる直前に金の配分が低い
  • 金価格が上昇した後に金を増やす
  • 株式と金が同時に下落する
  • 市場急変で想定した価格で取引できない

といった場合には、世界株式や金を単純保有した場合より成績が悪くなることがある。運用会社も、ルールや指標が意図どおりに機能する保証はなく、世界株式や金に100%投資した場合より低いパフォーマンスになる可能性を認めている。

4.危機時の流動性リスク

平常時には、金先物・金ETF・担保付社債は円滑に価格形成される。しかし、本当に金が必要とされる金融危機では、流動性が急減し、売買価格が理論価格から乖離する可能性がある。

大量解約や市場急変時には、

  • 組入資産を適正価格で売却できない
  • 基準価額が金価格から乖離する
  • 換金受付が停止される
  • 換金代金の支払いが遅れる
  • 担保付社債が早期償還される

可能性がある。

すなわち、「危機に強い金」を組み込んでいても、その金へのアクセスが金融システムに依存しているという矛盾がある。

反――現物裏付けがなくても金投資として機能する

もっとも、現物裏付けがないことだけを理由に、ゴルカンの金部分を否定するのも一面的である。

通常の投資目的が「金地金の所有」ではなく、「金価格の値動きをポートフォリオに取り込むこと」であれば、先物やデリバティブによる運用でも目的を達成できるからである。

1.平常時の価格連動性は期待できる

金先物は、金現物から完全に切り離された架空の商品ではない。現物価格、金利、保管費用、需給、裁定取引によって金地金価格と結び付いている。

したがって、市場が正常に機能している限り、金先物や金ETFを参照する戦略でも、金価格上昇の利益を相当程度享受できる。

2.担保付社債は無担保債券ではない

ゴルカンが投資するのは「担保付社債」であり、発行体への無担保の貸付けとは異なる。担保は、発行体の信用リスクを軽減するために存在する。

発行体の破綻時に損失が完全に防げるとは限らないが、「現物がないから無価値になる」という単純な構造でもない。

3.資金効率と運用の柔軟性がある

現物の金地金を保管するには、保管・輸送・監査・保険などのコストがかかる。金融商品を利用すれば、少額から世界株式と金を組み合わせ、配分変更やリバランスを機動的に行える。

ゴルカンの役割は「金庫の代替」ではなく、金を利用して株式ポートフォリオの値動きを調整する運用装置にある。

4.現物裏付け型ETFにも制度的リスクは残る

現物裏付け型金ETFであっても、一般の投資家が自由に地金へ交換できるとは限らない。また、管理会社、受託銀行、保管銀行、指定参加者、証券取引所など複数の金融機関に依存している。

したがって、

現物金=信用リスクがほぼない
現物裏付け型ETF=現物に比較的近い金融商品
ゴルカン=金価格を利用した複合金融商品

という連続的な違いとして理解すべきである。

合――「価格ヘッジ」と「体制ヘッジ」を区別する

この矛盾は、金を保有する目的を二つに分けることで止揚できる。

価格ヘッジとしての金

目的が次のようなものであれば、ゴルカンの金部分にも合理性がある。

  • 株式との値動きの分散
  • インフレやドル安への対応
  • 金価格上昇による収益獲得
  • 一つの投資信託内での配分調整
  • NISAを利用した複合資産運用

この場合、重要なのは金地金の所有ではなく、基準価額が金価格をどの程度取り込めるかである。平常時の分散投資商品として評価するなら、現物裏付けがないことは致命的な欠点ではない。

体制ヘッジとしての金

一方、金を保有する目的が次のようなものであれば、ゴルカンは代替にならない。

  • 金融機関の破綻への備え
  • デリバティブ市場の機能停止への備え
  • 通貨・決済制度の信用低下への備え
  • 自分の権利として特定された金地金の確保
  • 金融システム外に資産を置くこと

この目的では、金価格に連動する債権ではなく、現物金、または十分な現物裏付けと保管・監査体制を持つ金ETFの方が適合する。

結論

ゴルカンの本質的なリスクは、単に「金地金を持っていない」ことではない。

より正確には、

金という信用不安に強い資産への投資を、金融機関の信用、担保付社債、デリバティブ市場、運用ルールという信用システムを通じて実現している

ことにある。

平常時には、この仕組みは資金効率と分散効果を生む。しかし、金融危機が深刻になるほど、金価格への連動を支えている発行体・取引相手・市場流動性・運用ルールが弱点として現れる可能性がある。

したがって、ゴルカンは「金を保有する商品」というより、金価格を利用して世界株式のリスクを調整する複合戦略商品と理解するのが妥当である。

価格変動への備えとしては有効でも、金融システムそのものへの備えとしては現物金や現物裏付け型金ETFを完全には代替できない。両者は優劣ではなく、守ろうとしているリスクの階層が異なるのである。

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