個人が自宅(マイホーム)を売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です(租税特別措置法35条)。
所有期間が5年以下でも利用でき、所得制限もありません。国税庁「マイホームを売ったときの特例」
1.税額の計算
不動産の売却代金から、取得費と譲渡費用を差し引いて譲渡所得を計算します。
そこから特別控除を適用します。
たとえば、
- 売却代金:8,000万円
- 取得費:4,000万円
- 譲渡費用:500万円
なら、譲渡所得は3,500万円です。
この500万円に対して、長期・短期の区分に応じた税率がかかります。
なお、特別控除は「3,000万円が返ってくる制度」ではなく、譲渡益から最大3,000万円を差し引く制度です。譲渡益が2,000万円なら控除額も2,000万円までで、残りの1,000万円を他の所得から差し引くことはできません。
2.対象となる居住用財産
原則として、次の財産が対象です。
- 現在、自分が住んでいる家屋
- 以前住んでいた家屋
- その家屋と一緒に売る敷地または借地権
- 一定の要件を満たす、家屋を取り壊した後の敷地
以前住んでいた家屋については、原則として次の期限までに売却する必要があります。
住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
例えば、2026年8月に転居した場合は、2029年12月31日までの売却が期限となります。
転居後に賃貸に出したり事務所として利用したりしても、期限内であれば原則として対象になり得ます。
家屋を取り壊して土地だけ売る場合
次の要件が重要です。
- 取壊しから1年以内に土地の売買契約を締結する
- 住まなくなってから3年後の年末までに売却する
- 取壊しから売買契約まで、土地を駐車場などに利用しない
単なる更地の売却には当然に適用されるわけではありません。
3.主な適用要件
主な要件は次のとおりです。
- 実際に生活の本拠として使用していたこと
- 特例目的だけの形式的な入居でないこと
- 別荘や保養用住宅でないこと
- 売却年の前年・前々年に、原則として同じ3,000万円控除等を受けていないこと
- 売却年、その前年・前々年に、マイホームの買換え特例等を受けていないこと
- 売却相手が「特別の関係がある者」でないこと
- 確定申告をすること
所有期間の長短は、3,000万円控除自体の要件ではありません。ただし、控除後に譲渡所得が残る場合の税率には影響します。
4.親族に売却した場合
親族への売却では、相手が「特別の関係がある者」に該当すると、3,000万円特別控除は使えません。
原則として適用できない相手
- 配偶者
- 父母、祖父母、子、孫などの直系血族
- 生計を一にする親族
- 売却後、その家屋で売主と同居する親族
- 内縁関係にある者
- 売主から受ける金銭などで生計を維持している者等
したがって、父が自宅を子に時価で売却しても、父は3,000万円特別控除を受けられません。適正な時価で売ったかどうかとは別に、親子という関係そのものによって除外されます。
兄弟姉妹などへの売却
兄弟姉妹や叔父・叔母、甥・姪などは、親族であるというだけで直ちに除外されるとは限りません。
ただし、次のような場合は対象外となります。
- 売主と生計を一にしている
- 売却後、その家屋で売主と同居する
- 売主から生活費の援助を受けて生計を維持している
つまり、「親族への売却はすべて不可」ではありませんが、配偶者・直系血族は原則不可、それ以外は生活関係や売却後の居住状況まで確認する必要があります。
5.法人に売却した場合
法人への売却は、一律に適用対象外となるわけではありません。
無関係な第三者法人への売却
不動産会社や一般事業会社など、売主と特殊な関係のない第三者法人に通常の売買として売却する場合は、ほかの要件を満たせば3,000万円特別控除を利用できます。
一般的な不動産会社による買取も、法人への売却であることだけを理由に対象外にはなりません。
自分や親族が支配する法人への売却
売主と「特殊な関係のある法人」に売却した場合は、適用できません。
典型例は、売主本人や一定の親族・関係者が、合計で発行済株式等の50%超を保有する同族会社です。
| 売却先 | 3,000万円控除 |
|---|---|
| 無関係な不動産会社 | 原則として可能 |
| 無関係な一般事業会社 | 原則として可能 |
| 自分が100%所有する資産管理会社 | 不可 |
| 自分と親族で50%超を所有する会社 | 原則として不可 |
| 自分が代表者だが、株式を保有していない独立した会社 | 直ちに不可とは限らず、資本・支配関係を要確認 |
例えば、個人所有の自宅を、その個人が100%株主である資産管理会社へ売却しても、形式的には個人から法人への譲渡ですが、特殊関係法人への譲渡となるため、3,000万円特別控除は原則として使えません。
6.親族・同族会社への売却で注意すること
特例の可否とは別に、売買価額も適正な時価にする必要があります。
- 親族へ著しく安く売ると、買主側に贈与税が課される可能性がある
- 法人へ著しく安く売ると、個人・法人双方で時価を基準とした課税問題が生じることがある
- 法人が高額で買い取れば、売主への利益供与や役員給与等の問題が生じ得る
- 実態が売買ではなく贈与と判断される可能性もある
親族や同族会社との取引では、「売買契約書を作り、代金を振り込んだ」だけでは十分ではなく、不動産鑑定や複数社の査定など、時価の根拠を残しておくことが重要です。
7.住宅ローン控除との関係
3,000万円特別控除を利用すると、新居について住宅ローン控除を利用できない期間が生じることがあります。
特に次の期間関係を確認する必要があります。
- 新居へ入居した年
- その前年・前々年
- 入居した年の翌年から3年目まで
「旧居の3,000万円控除」と「新居の住宅ローン控除」のどちらが有利か、税額を比較して選択する必要があります。
8.確定申告が必要
譲渡益が3,000万円以下で、特例適用後の税額がゼロになる場合でも、確定申告が必要です。
一般には次の書類を使用します。
- 確定申告書
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書、取得時の契約書等
- 仲介手数料などの領収書
- 住民票上の住所と物件所在地が異なる場合は、戸籍の附票など居住実態を示す書類
結論
3,000万円特別控除は、マイホームの売却益を大幅に圧縮できる強力な制度です。しかし、売却先によって結論が大きく変わります。
- 第三者個人・第三者法人への売却:原則として適用可能
- 配偶者・親・子・孫などへの売却:適用不可
- その他の親族:生計や同居関係によって判定
- 自分や親族が支配する同族会社への売却:原則として適用不可
- 無関係な法人への売却:原則として適用可能
とりわけ、個人所有の自宅を自分の資産管理会社へ移転する方法では、この3,000万円控除を使えない可能性が極めて高い点に注意が必要です。


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