――減税財源としての活用を弁証法により論じる
結論
外為特会は、まったく手を付けられない聖域ではない。しかし、円安によって生じた巨額の為替評価益を、恒久的な消費税減税の財源とみなすことも適切ではない。
弁証法的な解決は、外貨準備の適正規模を検証したうえで、余剰部分を段階的に縮小し、その収入を国債償還や一時的政策に充てることである。
正:外為特会は国民の資産であり、有効活用すべきである
外為特会は、過去の円売り・ドル買い介入によって形成された。政府は円資金を調達してドルを購入し、そのドルで米国債などを保有している。
近年の円安により、ドル建て資産の円換算額が増加し、外為特会には巨額の為替評価益が生じた。2024年度末には、資産と負債の差額が約81兆円、うち為替換算益が約50兆円に達したとされる。
ここから、次の主張が生まれる。
国民に負担を求めながら、政府が巨額の含み益を抱え続けるのは不合理ではないか。
日本の外貨準備が危機対応に必要な水準を上回っているなら、余剰資産を売却して円に戻すことには合理性がある。
さらに、ドル売り・円買いは円高方向に作用するため、
- 輸入物価の抑制
- 家計の実質購買力の改善
- 外貨資産への過度な集中の是正
- 政府債務の圧縮
を同時に実現する可能性がある。
したがって、外為特会を不可侵の領域とするのではなく、国民経済のために活用すべきだというのが「正」である。
反:外為特会は自由に使える埋蔵金ではない
しかし、約50兆円の為替換算益は、政府の手元にある現金ではない。
たとえば、1ドル=100円で取得した米国債が、円安によって1ドル=160円で評価されれば、帳簿上は60円の利益が生じる。しかし、その利益を円で使うには、米国債を売却し、さらにドルを円へ交換しなければならない。
つまり、評価益の活用は必然的に、
米国債売却
↓
ドル売り・円買い
↓
円高の進行
という市場取引を伴う。
大量に実施すれば、米国債市場、ドル円相場、日米関係に影響を与える。財源確保を目的としていても、経済的には為替介入とほぼ同じである。
また、外貨準備は通貨危機や金融市場の混乱に備える国家的な保険でもある。現在余っているように見えても、将来の円安や外貨流動性危機に備える余力まで失えば、国家の金融安全保障を弱めてしまう。
さらに重要なのは、財源の時間軸である。
| 項目 | 性質 |
|---|---|
| 消費税減税 | 毎年度続く恒久的な税収減 |
| 為替評価益 | 相場によって増減する含み益 |
| 外貨資産の売却益 | 一度限りの収入 |
| 外貨準備 | 売却すれば減少する資産 |
一時的な資産売却で恒久減税を賄えば、外貨資産を売り切った時点で財源が消える。その後は増税、歳出削減、国債増発のいずれかが必要になる。
したがって、外為特会を「打ち出の小づち」と扱うことは、ストックとフローを混同する議論だというのが「反」である。
合:外貨準備の適正化と財源論を分離する
正と反の対立を乗り越えるには、二つの問題を切り分けなければならない。
第一は、
日本の外貨準備は、危機対応上どの程度必要なのか。
第二は、
減税によって恒久的に失われる税収を、何で補うのか。
この二つは本来、別の問題である。
外貨準備が過大であるなら、その余剰部分を段階的に縮小することは正当化できる。しかし、そこで得た一時的収入を、恒久減税の財源として固定化することはできない。
したがって、余剰外貨を活用するなら、用途も一時的・財務的なものに対応させるべきである。
具体的には、
- 政府短期証券や国債の償還
- 災害・安全保障など臨時支出
- 一時的な物価高対策
- 外貨準備の資産構成の見直し
- 将来の財政負担を軽減する投資
などが考えられる。
とりわけ国債償還に充てれば、政府資産と政府債務を同時に縮小できる。これは新しい恒久財源を生むわけではないが、将来の利払い費を減らし、財政余力を改善する。
一方、消費税を恒久的に引き下げるなら、
- 恒久的な歳出削減
- 他の税収の増加
- 経済成長による税収増
- 社会保障制度の構造改革
と組み合わせる必要がある。
弁証法的総括
外為特会をめぐる議論は、次のように整理できる。
正――巨額の外貨資産は国民の財産であり、余剰部分を有効活用すべきである。
反――評価益は現金ではなく、外貨準備は危機対応資産である。一時的な売却益を恒久減税に使うことはできない。
合――外貨準備の適正規模を検証し、余剰部分だけを段階的に縮小する。その収入は国債償還など一時的・財務的用途に限定し、恒久減税には恒久財源を用意する。
外為特会は「絶対に使ってはならない聖域」ではない。しかし、「使っても減らない財布」でもない。
要するに、
外為特会は国民の資産であるからこそ活用を検討すべきだが、国民の資産であるからこそ、恒久政策の穴埋めとして安易に食い潰してはならない。
これが、外為特会をめぐる議論のアウフヘーベンである。


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