レーガン政権の経済政策は「レーガノミクス」と呼ばれる新自由主義改革を標榜し、国防費増加・政府支出の抑制・所得税や資本利得税の引き下げ・規制緩和・マネーサプライの引き締めを柱とした。当時の米英の保守政権は、資本主義を国家の「足かせ」から解放するとして富裕層への減税・公共支出削減・公共事業の民営化・金融市場の自由化・労働組合の影響力抑制を唱え、後の「第三の道」政権もこうした政策を踏襲した。これは「小さな政府」「自由市場」を理念とするテーゼである。
しかし実際の政策運営は大きな矛盾を孕んだ。レーガン政権は所得税率を大幅に下げたものの、社会保障や国防費は削減できず、財政支出は抑えられなかった。その結果、1980年に2%だった財政赤字は1985年にGDPの6%に膨張し、国家債務は歴代政権を上回る規模に増加した。さらに連邦準備制度は1970年代のインフレを抑えるため厳しい金融引き締めを行い、長期金利は10%以上で高止まりした。高金利は米ドルを急激に上昇させ、外貨流入が増加したことで1980年には均衡していた貿易収支が1985年にはGDPの約3〜4%の赤字に転落し、製造業の競争力低下や工場閉鎖を引き起こした。このように、減税と歳出増による財政赤字と、金利引き締めによる強いドルが同時に進行し、財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」が顕在化した。レーガン大統領の経済諮問委員会議長であったフェルドスタインは、この財政膨張がドル高を招き経常収支を悪化させる現象を指して「双子の赤字」と名づけた。
財政赤字の拡大は国家債務の上昇だけでなく、政治的にも「新自由主義」の自己矛盾を露呈した。エコノミストのニスカネンは、レーガン政権下で民間保有国債残高がGDP比22.3%から38.1%へ増え、最後の予算でも2.9%の財政赤字が残ったと指摘する。また政権は自由貿易を謳いながら、輸入の23%に何らかの規制をかけるなどフーヴァー以来最多の貿易障壁を導入した。このアンチテーゼは、自由市場を掲げる新自由主義が、実際には巨額の財政支出や保護主義的措置によって支えられていたことを示す。
双子の赤字が示す矛盾を解決するため、米国は同盟国との協調行動を迫られた。1985年のプラザ合意では主要国が協調介入し、ドル高を是正することで経常赤字と国内産業の停滞に対処した。しかし財政赤字自体はその後も続き、予算均衡と貿易収支改善の両立が容易でないことが明らかになった。また、財政赤字と貿易赤字の因果関係は単純ではなく、後のクリントン政権下では財政黒字が実現しても経常赤字が解消しなかったことから、双子の赤字仮説への懐疑も生じた。
修正資本主義(混合経済)の観点からは、金利操作による需要と供給の調整には限界がある。カナダ銀行は、金融政策は「鈍い道具」であり特定の地域やセクターを精密に狙えないうえ、政策金利の変更が経済に浸透するには一年以上かかると説明している。さらに政策金利は住宅供給などの構造的問題を解決できず、長期的な経済成長は人口や生産性の向上に依存するため、金利では左右できない。米ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁も、中央銀行は長期的な生産性や競争力、教育水準に影響を与えられず、「安定した貨幣環境の創出」「危機対応」「短期的な景気調整」の三つしかできないと指摘する。実際、名目金利がゼロ近傍まで低下する流動性の罠では、マネー供給を増やしても利子率が下がらず投資や需要が拡大しないため、金融政策は効果を失う。ケインズ派の分析でも、利下げは景気刺激に有効だが、流動性の罠では利子率が下がらず投資や雇用を押し上げられないため、財政政策などの政府介入が必要とされる。
以上の考察から、レーガン政権下の双子の赤字と新自由主義は単なる政策失敗ではなく、自由市場を標榜するテーゼと、巨大な国家役割拡大というアンチテーゼの矛盾を映し出す歴史的事例である。ドル高・高金利・経常赤字の組み合わせは、財政金融政策の相互作用が国際経済に及ぼす影響を示し、「市場だけでは均衡が保てない」という教訓をもたらした。一方で、金利を操作するだけでは経済の供給制約や長期成長を解決できないことも明らかになった。新自由主義的な供給重視の改革は一定の成長をもたらしたものの、財政赤字と所得格差の拡大、貿易赤字の深刻化といった新たな問題を生み、結果としてプラザ合意や後の財政調整など国家介入を必要とした。こうした弁証法的な展開は、現代の政策論争においても、金融政策・財政政策・産業政策を組み合わせた総合的アプローチの重要性を示唆している。
まとめ
- レーガン政権は減税と規制緩和による新自由主義改革を掲げたが、国防費や社会保障費は削減できず、財政赤字はGDP比2%から6%に拡大し国債残高も大きく増えた。
- 高金利政策がドル高を招き、貿易収支は1980年の均衡から1985年にはGDP比3~4%の赤字に悪化し、製造業の衰退を招いた。「双子の赤字」という用語は財政拡張がドル高と経常赤字をもたらす現象を表す。
- 政権は自由貿易を標榜しながらも輸入規制を拡大し、財政赤字、貿易赤字、保護主義という新自由主義の矛盾を露呈した。
- 金融政策は物価安定に有効だが、金利操作は鈍い道具であり構造問題や長期成長を解決できない。流動性の罠では金利引下げの効果が失われ、財政政策による需要刺激が必要とされる。
- 双子の赤字は、自由市場と国家介入の対立を示すと同時に、財政・金融政策の調和が不可欠であることを教える。

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