米国株が弱いときに新興国株式や金が堅調になる状況は、偶然ではなく三つ巴の関係から生まれます。弁証法の枠組みに沿って整理すると次のようになります。
テーゼ:米国株式は長期的な成長の原動力だが割高で集中度が高い
- 米国市場は技術革新とAIブームに支えられており、2009年以降の16年間で12回、国際市場より高いリターンを記録しました。2025年末時点でS&P500の上位10銘柄(いわゆる「マグニフィセント7」など)が時価総額の4割以上を占め、米国株のパフォーマンスは少数のハイテク巨人に大きく依存しています。
- この偏りによりバリュエーションは膨らんでいます。米国株の予想株価収益率(P/E)は海外株より35%程度高く、2026年初頭の米国市場全体は本源的価値に対して約4%割高とされています。一方、国際株は割安で、例えばMSCI EAFE指数の予想P/Eは15.1倍で過去10年平均に近く、S&P500は22.3倍と歴史的水準を上回っています。
- 高バリュエーションと高集中度は将来リターンを抑制しやすく、金利上昇や政策不透明感が加われば米国株は脆弱になります。米国株が弱含む局面では「米国売り」への心理が広がり、非米資産への分散が促されることがあります。
アンチテーゼ:新興国株と金はドル安・リスク分散の恩恵を受ける
- 新興国株式の魅力はバリュエーションと通貨要因です。Eastspringによると、MSCI新興国指数は2025年に34%上昇し、S&P500の18%を大きく上回りました。新興国株の予想P/Eは約13.5倍で米国株より40%ほど安く、米国株が高値圏にあることを踏まえると割安感が大きい。RBC GAMは、ドル安が続くと多くの新興国が抱える米ドル建て債務の負担が軽減し、金融引き締めから緩和へ転換できるため、新興国企業の利益が拡大し株価を押し上げると指摘します。
- 金は地政学的リスクやインフレに対する安全資産として買われます。世界金評議会によると2025年は高い不確実性とドル安を背景に金が60%超上昇し、2026年1月には1オンス5,000ドルを突破した後も上昇基調が続きました。RBCのレポートは、金価格の上昇要因として各国中銀の買いを挙げています。中銀は2025年に863トンの金を購入し、制裁リスクやドル偏重からの脱却を図っています。こうした金需要はドルへの信任低下や米国の双子の赤字(財政赤字と経常赤字)への警戒に基づいており、金が米国資産ヘッジとして選ばれていることを示します。
- 「Sell America」現象:投資家が米国資産から非米資産へ資金を移す動きを「Sell America」と呼ぶことがあります。EBCの分析では、この現象は単なる株安ではなく、ドル安・長期金利の上昇・米国株の相対的劣後が同時に進む時期に生じ、欧州株や日本株、新興国株、金などに資金が循環すると述べています。背景には政策不確実性や財政赤字拡大によるタームプレミアム上昇、貿易摩擦などがあり、投資家は米国リスクに対するリスクプレミアムを引き上げることで対応しています。
ドル需要の視点
- 米ドルは依然として世界の基軸通貨です。クリーブランド連銀の講演によると、世界貿易の半分以上がドル建てで行われ、日々の外為取引の約90%にドルが関与しており、多くの国の政府・中央銀行が外貨準備としてドル建て資産を保有しています。ドルのシェアは1999年の72%から2025年には約56%に低下しましたが、IMFの調整後データでは減少幅は小さく、依然として他通貨を大きく凌ぎます。
- ただし、多極化の兆しもあります。Wolf StreetはIMFデータに基づき、2025年末の外国為替準備に占めるドルの比率が56.8%と31年ぶりの低水準に下落したものの、各国中銀はドル資産を売却しているわけではなく、新興国通貨や金など「非伝統的」資産を追加購入していることがドル比率低下の主因だと指摘します。これによりドル需要はやや分散され、ドル安が進むと新興国株や金のリターンが押し上げられる。
- 一方、米国の法制度の安定性と深い資本市場はドルの安全資産としての地位を支え続けています。連銀は、強固な法の支配と自由な資本移動、流動性の高い市場が投資家に信頼されていると強調し、高インフレや財政不均衡に対処する政策を堅持することでドルの安全性を守る必要があると述べています。
総合的な見解(ジンテーゼ)
- 米国株式はイノベーションと経済規模に支えられ、グローバルポートフォリオの中心的存在であり続けます。しかし高バリュエーションや政策リスクが表面化すると、米国株は下振れしやすく、その際に資金は割安な新興国株や安全資産の金へ向かいやすい。
- 新興国株式は、低バリュエーション、ドル安による負債負担の軽減、AI関連需要やインフラ投資の拡大といった要因から中期的に魅力が高まっています。金は、地政学リスク・インフレ・ドル下落へのヘッジ手段として中銀や投資家の需要が増え、米国の双子の赤字と世界の政治リスクが続く限り、価格の支援要因となります。
- ドル需要は依然として強く、世界貿易・金融の基盤であり続けています。ドルが弱含んでも基軸通貨としての地位はすぐには揺らがず、金や新興国株への資金流入は多極化・分散投資の一環にすぎません。Atlantic Councilは、ドルのシェア低下や外貨準備の変化は歴史的なレンジ内にあり、外国人投資家の米国債保有額も過去最高水準にあることから、ドル支配の終わりを示すものではないと指摘します。
- このため、米国株・新興国株・金の関係は相反するものではなく循環的です。米国株が不振のとき、新興国株と金が堅調になるのは、ドル安や投資家心理の変化による「リスク分散」の動きであり、長期的な米国資産離れではありません。投資家にとって重要なのは、米国株に集中しすぎない分散投資と、ドルサイクルや地政学リスクを考慮した資産配分戦略を採用することです。
要約
米国株は歴史的な成長と深い市場で投資家を惹き付け続けていますが、2025年~2026年は高バリュエーションや政策不確実性から下振れリスクが顕在化しました。こうした局面では、割安で成長余地の大きい新興国株や、インフレ・地政学リスクへのヘッジとなる金が資金を集め、ドル安がその追い風となります。一方で米ドルの安全資産としての地位は依然として強固であり、米国株からの資金流出は分散投資の一環にすぎません。米国株が弱含むと新興国株や金が堅調になるのは、投資家がグローバルなリスクとリターンのバランスを調整している結果であり、長期的には三者を適切に組み合わせることが重要となります。

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