結論
この文章の核心は正しいです。ただし、学術的に正確に言い換えるなら、
広く分散された低コストのインデックス投資は、常に最高の利益を出す方法ではない。しかし、一般の投資家が長期にわたり、コスト控除後・リスク調整後で市場平均を上回るための、もっとも再現性の高い方法である。
となります。
「インデックス投資が必ず一番儲かる」と証明されたのではなく、市場平均を継続的に上回る銘柄や運用者を、事前に選び続けることが極めて難しいと理論・実証の両面から示されてきたのです。
1.市場価格には、すでに情報が織り込まれている
株式市場には、機関投資家、証券会社、ヘッジファンド、AI、個人投資家など、無数の参加者がいます。
ある会社に好材料があれば、多くの投資家が買おうとします。その結果、株価はすぐに上昇します。逆に悪材料があれば、売られて下落します。
したがって、私たちがニュースを見て、
「この会社は成長しそうだから買おう」
と思った時点では、その成長期待はすでに現在の株価に相当程度反映されています。
これがユージン・ファーマの「効率的市場仮説」の基本的な考え方です。ファーマは、ラース・ハンセン、ロバート・シラーとともに「資産価格の実証分析」によって2013年のノーベル経済学賞を受賞しました。ノーベル賞公式サイト
ただし、これは「市場価格は常に正しい」という意味ではありません。バブルも暴落も起きます。重要なのは、
市場が間違っていることと、自分がその間違いを事前に発見して利益に変えられることは、まったく別問題である
という点です。
2.投資家全体では、必ず市場平均になる
市場全体の時価総額が100兆円なら、投資家全体が保有しているものも、その100兆円分の株式です。
ある投資家が市場平均を上回れば、必ず別の投資家が市場平均を下回ります。投資家全体の成績は、コストを差し引く前には市場平均と一致します。
式にすると、極めて単純です。
ところが、アクティブ投資には調査費用、売買手数料、ファンド報酬、税金などが発生します。
したがって、コスト控除後は、
となります。
ノーベル経済学賞受賞者ウィリアム・シャープは、これを「アクティブ運用の算術」として説明しました。スタンフォード大学「The Arithmetic of Active Management」
つまり、インデックス投資の強さは、未来を正確に予想できることではありません。市場参加者全体の平均を、極めて低いコストで確実に取得できることにあります。
3.分散投資は「報われないリスク」を減らす
一社の株式だけを持っていると、その会社の不祥事、倒産、技術革新への乗り遅れなどによって、大きな損失を受けます。
しかし、数百社、数千社に分散すれば、特定企業の失敗による影響を小さくできます。
ここで重要なのは、リスクには二種類あるということです。
- 市場全体の下落によるリスク
- 特定企業だけが倒産するリスク
前者は株式投資をする以上、基本的に避けられません。そのため、長期的にはリスクプレミアムという形で報酬を期待できます。
一方、後者は分散すれば減らせるリスクです。わざわざ一社に集中しても、その危険に見合う追加報酬が必ず得られるわけではありません。
この「個々の銘柄ではなく、ポートフォリオ全体でリスクとリターンを考える」という現代ポートフォリオ理論を築いたハリー・マーコウィッツと、CAPMを発展させたウィリアム・シャープは、1990年にノーベル経済学賞を受賞しています。ノーベル賞公式発表
4.なぜプロでもインデックスに負けるのか
プロの能力が低いからではありません。むしろ、対戦相手も同じプロだからです。
一流のファンドマネジャーが割安株を見つけて買えば、その買いによって割安状態は解消されます。優秀な参加者が利益機会を探し続けるため、明らかな割安・割高は長く残りません。
さらに、アクティブ運用には次の不利があります。
- 高い信託報酬
- 頻繁な売買によるコスト
- 売却益への課税
- ファンド規模拡大による運用難
- 人気化した運用手法への資金集中
- 過去の好成績が将来も続くとは限らないこと
実際、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのSPIVA調査では、2025年に米国大型株アクティブファンドの79%がS&P500を下回りました。期間を長くすると、運用途中で消滅したファンドも含め、インデックスに勝ち続けるファンドはさらに少なくなる傾向があります。S&P Global SPIVA
5.それでも、インデックスが毎年勝つわけではない
ここは非常に重要です。
ある年には、個別株やアクティブファンドがインデックスを大きく上回ります。集中投資で資産を何倍にもする人も実際に存在します。
したがって、
インデックス投資が常に最高の収益率になる
という主張は誤りです。
正しくは、
将来の勝者を事前に判別できない以上、平均的な投資家にとっては、広く分散された低コストのインデックスが、長期的に最も失敗しにくい
ということです。
宝くじの当選者が存在することと、宝くじが合理的な資産形成手段であることは別です。同様に、個別株でインデックスを上回った人が存在しても、それだけで誰にでも再現可能な投資法とはいえません。
6.「50年間覆されていない」の正確な意味
世界初の個人向けインデックス投信として知られるバンガードのファンドが登場したのは1976年です。したがって、インデックス投資には約50年の実運用の歴史があります。
その間、
- ブラックマンデー
- 日本のバブル崩壊
- ITバブルとその崩壊
- リーマン・ショック
- コロナ・ショック
- インフレと急速な利上げ
などが起きました。
それでも、「低コスト・広範な分散・長期保有」という原則そのものを否定する決定的な証拠は現れていません。
もっとも、この50年間に理論がまったく変化しなかったわけではありません。バリュー、小型株、モメンタムなどのファクター投資や、行動ファイナンスも発展しました。市場が完全に効率的ではないことも広く認識されています。
それでもなお、
その非効率性を、一般投資家がコスト控除後で安定的に利益へ変え続けるのは難しい
という結論は維持されています。
最終的な理解
インデックス投資の優位性は、「大きく儲けられること」ではありません。
- 将来予測を必要としない
- 勝ち組企業を自動的に取り込める
- 敗退企業の影響を限定できる
- 運用コストを低くできる
- 人間の感情による売買ミスを減らせる
- 市場平均から脱落しにくい
という点にあります。
したがって、冒頭の文章は次のように修正すると、より正確です。
ノーベル経済学賞受賞者を含む多くの研究者によって、資産価格、分散投資、市場効率性、アクティブ運用の成績が数学的・実証的に研究されてきました。その結果、広く分散された低コストのインデックス投資は、必ず最高益を出す方法ではないものの、一般の投資家が長期にわたり市場の成長を取り込み、コスト控除後で多くのアクティブ運用を上回る、もっとも再現性の高い方法だと考えられています。この基本的な結論は、約50年にわたる実運用の歴史を経ても、いまだ大きくは覆されていません。


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