**財務会計上、重要性の原則によって少額の経過勘定を省略できても、法人税上、その金額を自由に支払・入金年度へ移せるとは限りません。**税務上の帰属年度とずれる場合には、別表四で当期所得を調整し、別表五(一)でその差額を翌期へ引き継ぐことになります。
ただし、「少額ならすべて調整不要」「経過勘定を省略したら必ず調整必要」という二つの断定は、どちらも適切ではありません。税務上も認められる簡便処理や特例の有無を確認する必要があります。
正――財務会計には、少額の期間対応を省略する合理性がある
財務会計の目的は、企業の財政状態や経営成績を明らかにし、利害関係者の判断に役立てることです。
そのため、企業会計原則注解では、重要性の乏しい前払費用・未収収益・未払費用・前受収益について、経過勘定として処理しないことが認められています。中小企業向けの会計資料にも、この考え方が示されています。chusho.meti.go.jp
例えば、少額の通信費を毎期継続して支払時に費用計上しても、決算書利用者の判断にほとんど影響しない場合があります。日割計算や未払計上に要する手間との比較では、簡便処理に合理性があります。
もっとも、これは発生主義を基本としつつ、一部の少額項目について現金主義的な処理を認めることです。会社全体を現金主義にすることとは異なります。
反――法人税では、少額であっても年度ごとの課税所得が問題になる
法人税では、会計利益を基礎にしながらも、税法に従って各事業年度の所得を計算します。
例えば、通常の販売費・一般管理費等については、原則として当期に帰属し、期末までに債務が確定した費用が損金になります。債務確定の判定では、債務の成立、給付原因となる事実の発生、金額の合理的な算定可能性が求められます。支払済みであることは、この一般的な要件に含まれていません。nta.go.jp
ここで、財務会計と税務会計の目的の違いが表れます。
「決算書全体から見れば小さい」という判断と、「どの年度の課税所得に含めるか」という判断は、同じではありません。さらに、二年間の合計所得が同じでも、欠損金や適用税率等の事情によって税額まで同じになるとは限りません。
したがって、少額であることや継続処理していることだけを根拠に、税務上の期間帰属を省略できると考えるのは不十分です。
合――会計の簡便性を維持し、税務上の差額を別表で管理する
以下は、税務上は期間対応が必要で、簡便処理・特例が適用されない場合の整理です。各金額が翌期に全額解消するものとします。
| 省略した経過勘定 | 当期の会計処理と税務とのずれ | 当期の別表四 | 翌期の別表四 |
|---|---|---|---|
| 前払費用 | 翌期分まで当期費用にした | 翌期分を加算・留保 | 翌期帰属分を減算・留保 |
| 未払費用 | 当期の損金となる費用を計上しなかった | 当期帰属分を減算・留保 | 支払時に費用計上した額を加算・留保 |
| 未収収益 | 当期の益金となる収益を計上しなかった | 当期帰属分を加算・留保 | 入金時に収益計上した額を減算・留保 |
| 前受収益 | 翌期分まで当期収益にした | 翌期分を減算・留保 | 翌期帰属分を加算・留保 |
※未払費用の行は、損金経理を要件としない通常の費用を想定しています。収益についても、取引ごとの税務上の計上時期を判定する必要があります。
別表四は当期の会計利益を税務所得へ修正する表、別表五(一)は税務上の利益積立金額を管理する表です。こうした期間のずれは、通常、留保項目として両者を連動させます。nta.go.jp
ここでいう「留保」は、現金を社内に残すという意味ではありません。会計と税務の差額が残り、後の年度に解消されることを管理する区分です。
例えば、8月決算法人が、8月分の通信費6,000円を未払計上せず、9月の支払時に費用処理したとします。税務上は8月末までに債務が確定し、当期損金となる前提です。
| 時点 | 別表四 | 別表五(一)の個別項目 |
|---|---|---|
| 当期末 | 「未払通信費認容」等として6,000円を減算・留保 | 未払通信費に係る差額を**△6,000円**で管理 |
| 翌期に支払・費用計上 | 「前期未払通信費」等として6,000円を加算・留保 | 前期差額を解消し、残高をゼロにする |
当期に税務上の損金を認め、翌期には会計費用を加算することで、同じ費用の二重控除を防ぎます。
逆に、翌期分の費用を当期に先払いして費用計上した場合には、当期に加算・留保し、別表五(一)にプラスの差額を残して、役務提供を受ける年度に減算します。
税務にも簡便処理はあるが、適用根拠が必要になる
代表例が、法人税基本通達2-2-14の短期前払費用です。
一定の契約に基づく継続的な役務について、支払日から一年以内に提供を受ける分を実際に支払い、その支払額を継続して支払年度の損金に算入している場合には、税務上も支払時の損金算入が認められます。この取扱いが適用されれば、その前払部分について期間帰属を直す別表調整は不要です。nta.go.jp
ただし、単に「少額」「一年以内」というだけで適用できるわけではありません。また、有価証券運用に係る借入金利子など、収益との対応が必要なものは、この取扱いの対象外とされています。nta.go.jp
つまり、税務も簡便性を全面的に否定しているわけではありません。簡便性を認める条件を、課税所得の計算上も確認する必要があるのです。
この弁証法から導かれる実務上の結論は、財務会計で経過勘定を省略することと、会社全体の事務負担が減ることは、必ずしも一致しないという点です。
帳簿では6,000円の未払計上を省略できても、税務では当期の減算、別表五(一)の残高管理、翌期の加算が必要になれば、かえって手間が増えます。毎年繰り返す費用なら、最初から未払計上した方が、会計と税務が一致して管理しやすい場合があります。
重要性の原則を実務に生かすには、帳簿処理だけでなく、申告調整と翌期の差額管理まで含めて、どの方法が簡便かを判断することが必要です。


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