世界に存在する金の内訳
世界中で採掘された金は2025年末時点で約219,890トンと推定される。この“地上在庫”は宝飾品や投資用地金、中央銀行の準備資産など多様な形で保持されている。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は金市場の規模と構造をまとめ、以下のように分類している。
| 保有形態 | 推定量 (トン) | 比率 (全在庫比) |
|---|---|---|
| 宝飾品 | 約97,650 | 44 % |
| 中央銀行・その他公的機関の準備資産 | 約38,670 | 18 % |
| 投資用バー・コイン | 約46,950 | 21 % |
| 物理的裏付けのある金ETF | 約4,025 | 2 % |
| OTC市場の保有(機関投資家・富裕層) | 最大10,000 | 5 % |
| その他(電子部品など技術用途) | 約22,600 | 10 % |
上表では「投資用バー・コイン」に個人投資家向け現物、機関投資家による保有の一部が含まれている。機関投資家の金保有として明確に区別できるのは、物理的裏付けを持つETF(約4,121トン、2026年5月時点)と、店頭市場における高額投資家や機関投資家の保有(約5%、最大1万トン)である。これらを合計すると、**中央銀行を除いた機関投資家の保有量は全在庫の約7%になる。中央銀行・公的機関の準備資産(約18%)まで含めれば、機関投資家・公的機関が保有する金は全在庫の約25%**となり、宝飾品が最大の保有者であることが分かる。
テーゼ:利子の付かない金は機関投資家に敬遠される
金は配当や利息を生まないため、他の資産と比べて持つだけで機会費用が生じる。金利が高い局面では債券や預金など利息の付く資産に対して劣るため、機関投資家は金を持ちにくい。証左として、世界の金投資需要が拡大しているにもかかわらず、**物理的裏付けを持つ金ETFは世界の地上在庫のわずか2%しか保有していない。ETFの金保有量は2026年5月時点で4,121トンであり、前月比で減少している。WGCは、店頭取引を含む投資家保有を合わせても全在庫の約7%**に過ぎないと推計している。世界の金融資産全体の中で金が占める比率も3%程度に留まる。
機関投資家が金の保有を抑える背景には、金利上昇による保有コストの上昇がある。金は負債を伴わない一方、保管費用や流動化の手間が必要であり、利息が付かないため資金繰りの対象になりにくい。高金利環境では、金を保有することで失われる利息(機会費用)が大きくなるため、株式や債券など利息や配当の得られる資産に比べて相対的に魅力が低下する。この点を踏まえると、「利息が付かない金を機関投資家は買わない」という命題には一定の根拠がある。
アンチテーゼ:金は機関投資家にとって重要な分散資産
しかし、金への投資が機関投資家に敬遠されているという主張は、金の役割や需要動向を十分に反映していない。WGCの日本語報告書によれば、2001年以来、世界における金の投資需要は年間平均15%で増加している。増加要因の一つは、金現物を裏付けとするETFなど投資手段の登場であり、2003年に金ETFが初めて登場して以来、ETFが保有する金は2,500トンを超えた。金市場へのアクセスが容易になったことで、機関投資家や年金基金はリスク管理の手段として金をポートフォリオに組み入れている。
また、世界の年金基金における非伝統的資産(オルタナティブ資産)の割合は2007年の15%から2017年には25%に増加しており、機関投資家が株式や債券以外の資産への配分を増やしている。WGCは日本の年金ポートフォリオを分析し、金を2.5〜10%組み入れることで過去10年間のリスク調整後リターンが向上したと指摘している。金は他の資産クラスとの相関が低く、株式市場の急落や金融システム不安時のヘッジ手段として有効である。
中央銀行という公的機関も金を積極的に保有している。WGCの市場プライマーによれば、中央銀行とその他公的機関は約38,670トンの金を保有し、これは全在庫の18%に相当する。公的機関による購入は2010年以降続いており、外貨準備の多様化と安全性確保のため金の買い越しに転じている。さらに、ゴールドETFの資産残高は2026年5月時点で6040億米ドル、保有量は4,121トンに達し、2月末の過去最高に近い水準で推移している。こうしたデータは、金が利息を生まないにもかかわらず、機関投資家や公的機関が資産防衛や分散投資のために金を保有している事実を示している。
ジンテーゼ:利息はないが、ヘッジ資産としての役割は大きい
金が利息を生まないことは事実であり、金利が高いときには保有コストが問題となる。このため、機関投資家がポートフォリオの大部分を金に置き換えることはほとんどない。一方で、金は債務を伴わない希少な資産であり、株式や債券とは異なる価格変動を示す。投資商品の発展や低金利の長期化を背景に、金はポートフォリオの一部として採用されてきた。データに基づけば、中央銀行を除いた機関投資家や富裕層の保有比率は全在庫の**約7%であり、全世界の金の大部分が宝飾品や個人投資家に保持されていることは間違いない。しかし、公的機関を含めれば機関投資家による保有は約25%**に達する。
したがって、「機関投資家は利息が付かない金を買わない」という命題は一面的である。金の利息欠如は大規模な投資を妨げる要因ではあるが、ポートフォリオのリスクを低減し、インフレや金融危機のヘッジとして機能するという理由から、多くの機関投資家や中央銀行は金を保有している。金は宝飾品としての需要と投資需要を兼ね備え、貴重な分散手段として今後も注目されるだろう。

コメント