「群衆に逆らうこと」と「市場より正しく考えること」の弁証法
結論
清原達郎氏の投資術は、単純な「逆張り」ではない。
その本質は、市場の多数派と反対の行動を取ることではなく、市場参加者が十分に調査していない領域で、価格と価値の矛盾を発見することにある。
したがって、清原流のコントリアン戦略は、
不人気株を買う戦略ではなく、人気の欠如によって生じた「誤価格」を買う戦略
と定義できる。
1.正――市場の多数派に従う合理性
株価は、多数の投資家が持つ情報・期待・不安を集約して形成される。
人気企業には、次のような利点がある。
- 多くのアナリストが調査している
- 情報開示が豊富である
- 売買が活発で流動性が高い
- 成長期待が株価に反映されやすい
したがって、市場平均に連動するインデックス投資や、業績の良い大型成長株への投資には十分な合理性がある。
特に、情報力の乏しい個人投資家にとって、市場の総意に従うことは、大きな判断ミスを避ける有効な方法である。
この立場から見れば、コントリアン戦略は危険である。
市場が悲観している企業には、実際に次のような問題が存在することが多い。
- 事業が衰退している
- 経営者に問題がある
- 資本効率が低い
- 保有現金が株主に還元されない
- 株価上昇の契機が存在しない
「皆が売っているから買う」というだけでは、合理的投資ではなく、単なる天邪鬼にすぎない。
2.反――市場価格は常に正しいわけではない
しかし、市場がすべての銘柄を平等に分析しているわけではない。
機関投資家は、流動性や運用規模の制約から、時価総額の小さい企業を買いにくい。証券会社にも、売買手数料や投資銀行業務につながりにくい小型株を積極的に調査する動機が乏しい。
その結果、小型株市場には、
価値がないから安いのではなく、誰も調べていないから安い企業
が生まれる。
清原氏が小型株を重視したのも、割安株が多く、独自調査がしやすいうえ、機関投資家やアナリストの参加が少ないためである。
タワーK1ファンドでは「割安小型株の買い」を運用の中心に据え、約25年間で基準価額93倍という成績を残したとされる。
参考:講談社『わが投資術』紹介
ここで、「市場は効率的である」という正に対して、「市場には構造的な非効率がある」という反が現れる。
人気銘柄で超過収益を得るには、すでに分析している多数の専門家よりも、早く、深く、正しく判断しなければならない。
一方、誰も見ていない小型株では、
面倒でも決算書を読み、会社の資産と時価総額を比較すること
それ自体が優位性になり得る。
3.清原流の核心――ネットキャッシュという「物質的基礎」
清原氏の投資思想は、期待や物語よりも、企業が現実に保有する資産を重視する。
その意味では、一種の「唯物論的投資術」といえる。
代表的な指標が、ネットキャッシュ比率である。
ネットキャッシュ比率
=(流動資産+投資有価証券×70%-負債)÷時価総額
ネットキャッシュ比率が1倍を超える企業は、概算上、換金可能性の高い資産から負債を差し引いた金額が、株式市場で評価された会社全体の価値を上回っていることになる。
参考:PHP THE21「清原達郎氏のネットキャッシュ比率」
これは、市場がその企業の事業価値をほぼゼロ、場合によってはマイナスに評価していることを意味する。
そこで、清原流の論点が生じる。
本当に、この会社の事業価値はゼロなのか。
市場の悲観が過剰であり、企業が黒字を維持したり、増配、自社株買い、資産売却、買収などが起きたりすれば、価格と企業価値の矛盾は修正される可能性がある。
4.コントリアン戦略が抱える矛盾
もっとも、「割安であること」と「株価が上がること」は同じではない。
現金を多く持っていても、経営者がそれを有効活用しなければ、割安状態は長期間続く。さらに、本業の赤字によって現金が減少すれば、当初存在した安全余裕も失われる。
コントリアン投資には、次の根本的矛盾がある。
市場が間違っていると考えて買っても、市場がその間違いを訂正しなければ利益にならない。
したがって、安さだけでは不十分である。
必要なのは、次の条件である。
- 本業が継続的に利益を生むこと
- 割安さを支える換金可能な資産があること
- 経営者が会社の資産を浪費しないこと
- 増配、自社株買い、事業改善などが期待できること
- 一銘柄への集中を避け、長期間保有できること
清原氏が重視したのも、単なる低PBR株ではない。
「割安」でありながら、「成長または価値顕在化の可能性を持つ小型株」である。
5.止揚――逆張りではなく「独立した価値判断」
以上を止揚すると、優れたコントリアン戦略は次のように表現できる。
コントリアン投資
=少数派であること
×客観的な割安さ
×価値修正の可能性
×生存できる資金管理
重要なのは、最初から多数派に逆らうことではない。
まず企業価値を計算し、その結果が市場価格と大きく異なったときに、結果として少数派になるのである。
つまり、
- 「皆が悲観しているから買う」のが俗流の逆張り
- 「調べた結果、悲観が過剰だと分かったから買う」のが清原流
という違いがある。
清原達郎氏の本当の強みは、恐怖に耐える精神力だけではない。
市場の熱狂や悲観から距離を置き、企業の資産、利益、時価総額という事実に立ち戻って考える能力にあった。
最終命題
コントリアンとは、群衆と反対方向へ走る者ではない。群衆が見ていない場所を調べ、価格と価値の矛盾が解消されるまで待てる者である。
清原達郎氏の投資術が示しているのは、「逆張りの勇気」以上に、「独立して調査し、計算する習慣」の重要性である。
個人投資家にとっては、資産形成の中核をインデックス投資に置き、清原流の割安小型株投資を限定的なサテライトとして用いることが、最も再現性の高い止揚といえるだろう。


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