――「広く薄い公平」と「選択的な公平」の弁証法
結論
消費税と物品税は、いずれも消費行為に着目する間接税である。しかし、その公平観は正反対である。
- 消費税:何を買ったかを原則として問わず、消費一般に広く負担を求める
- 物品税:何を買ったかを重視し、奢侈品など特定の物品に選択的に負担を求める
したがって、両者の本質的差異は、
消費税が「消費額」に担税力を見いだすのに対し、物品税は「消費内容」に担税力を見いだす
点にある。
弁証法的にいえば、物品税の恣意性を否定して成立したのが一般消費税である。しかし、消費税も逆進性という矛盾を抱えたため、現代の消費課税は、一般消費税を基礎としながら、個別消費税・給付・所得課税を組み合わせる方向へ進むべきである。
1.基本的な差異
ここでいう「物品税」は、主として日本で1989年まで存在した旧物品税を念頭に置く。
| 比較項目 | 消費税 | 物品税 |
|---|---|---|
| 課税対象 | 商品・サービス一般 | 法律で指定された特定物品 |
| 課税思想 | 広く消費全般に負担を求める | 奢侈的・嗜好的消費に重く負担を求める |
| 担税力の判断 | 消費額の大きさ | 購入した物品の性質 |
| 税率 | 原則として標準税率10%、一定品目は8% | 品目ごとに異なる税率 |
| 課税段階 | 生産・流通の各段階 | 主として製造場からの移出時など |
| 税の累積 | 仕入税額控除によって排除 | 課税段階が限定され、付加価値税方式ではない |
| サービス | 原則として課税対象 | 原則として対象外 |
| 経済への中立性 | 比較的高い | 品目選択に影響を与えやすい |
| 垂直的公平 | 逆進性を伴う | 奢侈品課税で一定程度確保できる |
| 最大の問題 | 低所得者ほど所得に対する負担率が高くなりやすい | 課税・非課税物品の線引きが恣意的になりやすい |
現行消費税は、生産・流通の各段階で課税しながら、売上税額から仕入税額を控除することで税の累積を防ぐ「多段階付加価値税」である。法律上の納税義務者は事業者だが、制度上は最終消費者への転嫁が予定されている。国税庁「消費税の基本的なしくみ」
2.正――物品税の合理性
物品税の出発点は、すべての消費を同じものとして扱わないことである。
生活に不可欠な米、衣服、日用品と、宝石、高級車、娯楽用品とでは、その消費が示す経済力が異なる。そこで、生活必需品には課税せず、奢侈品や準奢侈品に課税する。
この制度には三つの合理性がある。
① 担税力に応じた課税
高価な宝石や高級品を購入できる者には、より大きな担税力があると考えられる。
したがって物品税は、形式的には消費課税でありながら、実質的には富裕層を狙った補完的な累進課税として機能し得る。財務省資料も、旧物品税を「奢侈品または準奢侈品消費に示される担税力」に対する課税として説明している。財務省「税制メールマガジン第181号」
② 生活必需品への配慮
所得が低いほど、所得の多くを消費に回さざるを得ない。
生活必需品にも一律に課税する消費税と異なり、物品税では課税対象から必需品を除外できる。その意味で、低所得者への負担を抑えやすい。
③ 社会政策の手段
特定物品への課税は、財源調達だけでなく、その消費を抑制する機能を持つ。
現在でも酒税、たばこ税、揮発油税などが存続しているのは、財政目的だけでなく、健康、環境、道路利用などに伴う社会的費用を価格に反映させる意味がある。
物品税の思想は、個別消費税として現在にも残っているのである。
3.反――物品税の自己矛盾
ところが、物品税は「何が奢侈品か」を国家が決定しなければならない。
ここに根本的な矛盾が生じる。
① 奢侈品と必需品の境界は変化する
ある時代の贅沢品は、技術革新と所得上昇によって、やがて日用品になる。
例えば、テレビ、冷蔵庫、エアコン、自動車、パソコンなどは、登場当初には贅沢品とみなされ得たが、現代では生活や労働に不可欠な場合も多い。
つまり、
物品の性質が奢侈的なのではなく、奢侈性は時代・価格・所得・使用目的によって変化する。
にもかかわらず、税法は商品を固定的に分類しなければならない。
② 課税対象の線引きが不公平になる
同程度の価格・機能を持つ商品でも、法律上の分類によって課税されたり、されなかったりする。
その結果、
- 課税物品から非課税物品への需要移動
- 商品分類を巡る争い
- 業界団体による政治的働きかけ
- 新製品への制度対応の遅れ
が生じる。
物品税は「実質的公平」を目指しながら、品目間・企業間の「水平的不公平」を生み出してしまう。
③ サービス経済化に対応しにくい
物品税は、その名のとおり「物」を中心とする制度である。
しかし、経済が製造業中心から、情報通信、広告、金融、娯楽、サブスクリプションなどのサービス中心へ移行すると、物品だけに課税する制度では課税ベースが縮小する。
高級腕時計には課税するが、高額な会員サービスには課税しないのであれば、担税力の把握として一貫しない。
④ 安定財源になりにくい
奢侈品への課税を強めれば、その物品の購入が減少する。そのため、消費抑制には成功しても、税収は必ずしも増えない。
特定の物品だけに依存する税は、景気、流行、技術革新の影響も受けやすい。
この矛盾から、個別物品を狙い撃ちする税よりも、商品・サービス一般を広く課税対象とする一般消費税への転換が進んだ。
日本では1989年4月、物品税などの個別間接税が廃止され、税率3%の消費税が導入された。財務省「日本の税の歴史」
4.否定――消費税による物品税の克服
消費税は、物品税の選別主義を否定する。
国家が「これは贅沢品、これは必需品」と細かく判定するのではなく、原則としてあらゆる商品・サービスを課税対象とする。
これにより、消費税は次の長所を獲得した。
① 水平的公平
同じ金額を消費した者には、原則として同じ税負担を求める。
消費者の好みや商品の種類によって負担が大きく変わりにくいため、物品税より中立的である。
② 課税ベースの広さ
商品だけでなく、役務の提供も原則として課税対象となる。
そのため、サービス経済化が進んでも税収を確保しやすい。
③ 税収の安定性
所得税や法人税は景気によって大きく変動するが、生活上の消費が完全になくなることはない。
広い課税ベースを持つ消費税は、少子高齢化の下でも比較的安定した財源となる。現在は、社会保障の財源として位置付けられている。財務省「消費税率引上げについて」
④ 税の累積を排除できる
例えば、原材料、製造、卸売、小売の各段階で税が課されても、仕入税額控除によって前段階の税額が差し引かれる。
最終的には、それぞれの事業者が生み出した付加価値に対応する税負担となり、流通経路の長短によって税額が累積しにくい。
5.再反――消費税自身の矛盾
しかし、消費税が実現するのは「同じ消費には同じ負担」という形式的公平であって、「負担能力に応じた公平」ではない。
年収300万円の人が270万円を消費し、年収3,000万円の人が1,500万円を消費するとする。
消費額そのものは後者の方が大きいが、所得に対する消費税負担率は前者の方が高くなりやすい。富裕層は所得の一部を貯蓄や投資に回せるためである。
したがって、
物品税は品目間の不公平を生み、消費税は所得階層間の不公平を生む。
消費税は物品税の矛盾を克服した一方で、新たな逆進性という矛盾を作り出したのである。
さらに、現行制度は標準税率10%と軽減税率8%を併存させている。軽減税率は生活必需品に配慮する制度だが、商品を分類して税率を変える点で、消費税の内部に物品税的な考え方を復活させている。
そのため、区分経理やインボイス対応が必要になり、広く単一税率で課税するという消費税本来の簡素性が損なわれている。国税庁「消費税の軽減税率制度」
6.合――一般消費税を基礎とした政策的統合
両者の矛盾を踏まえた止揚は、単純に物品税へ戻ることでも、消費税だけに依存することでもない。
望ましい体系は、次の三層構造である。
第一層――一般消費税
商品・サービス一般には、広い課税ベースと可能な限り簡素な税率を適用する。
これは安定財源と経済的中立性を担う。
第二層――限定的な個別消費税
酒、たばこ、炭素排出、燃料など、消費によって社会的費用が生じるものには個別課税を行う。
ただし、その根拠は「贅沢だから」ではなく、
- 健康被害
- 環境負荷
- 道路など公共資源の利用
- 他者に及ぼす外部不経済
のように、客観的に説明できるものでなければならない。
高級時計や宝石を単に「贅沢品」として課税する旧物品税より、炭素排出量など測定可能な外部費用に課税する方が、現代的で合理的である。
第三層――所得課税と給付による逆進性の是正
低所得者対策は、軽減税率だけで行うべきではない。
軽減税率は低所得者だけでなく、対象商品を大量に購入する富裕層にも適用される。また、税率区分が増えるほど事業者の事務負担も増える。
したがって、
- 給付付き税額控除
- 低所得世帯への定額給付
- 社会保険料の軽減
- 所得税・相続税の累進性
- 最低限必要な非課税取引
を組み合わせた方が、対象を絞って再分配できる。
最終的評価
物品税は、「人によって負担能力が違う」という実質的公平を重視した。しかし、物品の分類によって人の担税力を推定するため、恣意性と経済的非中立性を免れなかった。
消費税は、その恣意性を否定し、「同じ消費には同じ課税」という水平的公平を実現した。しかし、所得に占める消費割合の違いを無視するため、逆進性を生じさせた。
よって、両者の関係は次のように整理できる。
物品税は「何を消費したか」を問う税であり、消費税は「いくら消費したか」を問う税である。
そして、その弁証法的な結論は、
財源調達は広い一般消費税、社会的費用の抑制は限定的な個別消費税、所得再分配は所得課税と給付に担わせる
という機能分担にある。
税制は、一つの税だけで公平性・中立性・安定性のすべてを実現することはできない。消費税と物品税の差異は、単なる新旧制度の違いではなく、形式的公平と実質的公平をどのように調和させるかという、租税制度そのものの根本問題なのである。


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