結論
仮にイラン戦争がトランプ政権中に解決せず、現在のような「緊張は続くが、一部の船舶は航行できる」状態が続くなら、タンカー用船料は平時より高い水準にとどまる可能性が高いと考えます。
ただし、次の二つは区別しなければなりません。
用船料が平時より高止まりする可能性は高い。
しかし、TRMDの2026年第2四半期の歴史的な好業績が、そのまま毎四半期続くとは限らない。
実際、TRMD(TORM)は2026年第2四半期に船隊平均TCE日額5万9,301ドルを記録しましたが、第3四半期について確定済みの73%は平均3万8,606ドルです。つまり、戦争が継続していても、第2四半期の異常な高値からは既に正常化が始まっています。TORM 2026年第2四半期決算
正:戦争が進展しなければ用船料は高止まりする
1.危険海域プレミアムが常態化する
2026年9月16日時点で、ホルムズ海峡の船舶通航は1日4隻にとどまり、直近10日平均の18隻、戦前の水準を大きく下回っています。しかも、VLCCやLNG船の通航は確認されていません。Reuters
この状態が続けば、
- 戦争保険料の上昇
- 船員への危険手当
- 航路変更・待機日数の増加
- 船主による危険海域への配船拒否
- 荷主による安全な船腹の争奪
が続きます。
重要なのは、用船料の上昇が単なる燃料価格上昇ではなく、利用可能な船腹の減少によって生じる点です。世界全体のタンカー数が変わらなくても、危険海域を避ける船、港外で待機する船、迂回する船が増えれば、実質的な供給量は減少します。
2.輸送距離の長期化が船腹需要を増やす
中東から製品を調達できなければ、欧州やアジアは、
- 米国湾岸
- インド
- シンガポール
- 北東アジア
- 西アフリカ
など、より遠い地域からガソリン、軽油、ジェット燃料等を調達します。
タンカー需要は単純な輸送量ではなく、概ね次の式で決まります。
貨物量が多少減っても、平均輸送距離が大きく伸びれば、トンマイル需要は増加します。これは原油タンカーよりも、世界各地の製油所間を結ぶプロダクトタンカーを主力とするTRMDに適した環境です。
3.「解決しない戦争」は船主に最も有利になり得る
全面封鎖でも和平でもなく、
- 時々攻撃が起こる
- 航行は可能だが危険である
- 保険料と用船料が上昇する
- 荷主は輸送を完全には止められない
という状態は、船主にとって収益性が高い局面です。
荷物が動き続ける一方、安全に運べる船の希少性が高まるからです。トランプ政権中に政治的解決がなく、この「管理された混乱」が継続するなら、用船料の高止まりは合理的です。
反:戦争の長期化は、必ずしも用船料を押し上げ続けない
1.完全封鎖に近づけば、運ぶ貨物自体が消える
タンカー会社に最も有利なのは「危険だが運べる」状態であり、「まったく運べない」状態ではありません。
ホルムズ海峡の通航量が極端に減り、湾岸産油国が減産・出荷停止に追い込まれると、
となる可能性があります。
船が不足するのではなく、運ぶ石油製品が不足する局面になれば、一部航路の用船料は逆に下落します。戦争の激化は、一定水準を超えると「船腹不足」から「貨物不足」へ転化するのです。
2.原油高が石油需要を破壊する
原油と石油製品価格が高騰すれば、
- 自動車利用の減少
- 航空需要の低下
- 企業活動の停滞
- 世界景気の後退
- 石油製品在庫の取り崩し
が起こります。
短期的には物流混乱が用船料を押し上げても、半年から1年後には需要破壊がプロダクトタンカー需要を抑える可能性があります。
戦争が長引くほど、用船料への効果は単純なプラスではなくなります。
3.TRMDの第2四半期は「高止まり」ではなく「突出値」に近い
TRMDの2026年第2四半期は、
| 指標 | 2026年Q2 |
|---|---|
| TCE収入 | 5億1,200万ドル |
| EBITDA | 4億1,600万ドル |
| 純利益 | 3億3,800万ドル |
| 船隊平均TCE | 日額5万9,301ドル |
| 1株配当 | 2.40ドル |
| 投下資本利益率 | 44.2% |
という記録的な内容でした。TORM決算発表
しかし、第3四半期の確定済みTCEは日額3万8,606ドルです。
すなわち、確定済み単価は第2四半期平均を約35%下回っています。
これは「戦争継続=毎四半期2.40ドル配当」という単純な推計が危険であることを示しています。2.40ドルは平常配当ではなく、例外的なスポット市況から生まれた変動配当と見るべきです。
4.TRMD自身も戦争コストを負担する
TRMDにとっても戦争は無条件の利益ではありません。
- 戦争保険料
- 燃料費
- 船員確保費
- 船舶の損傷・運航停止リスク
- 港湾閉鎖
- 回収不能・契約不履行リスク
- 船価上昇による更新費用増加
が発生します。
TCEは航海費控除後の収益指標ですが、事故や長期運休といったテールリスクまでは完全に吸収できません。
合:用船料は「二段階の高止まり」になる
以上を止揚すると、今後の用船料は第2四半期の最高値を維持するのではなく、次のような形になる可能性が高いでしょう。
| 市況 | 用船料 | TRMDへの影響 |
|---|---|---|
| 和平・航路正常化 | 急速に低下 | 明確な減益 |
| 緊張継続・限定的通航 | 平時より高止まり | 最も有利 |
| 攻撃激化・迂回増加 | 一時的に急騰 | 短期的に大幅増益 |
| 事実上の完全封鎖 | 航路ごとに二極化 | 貨物消失が逆風 |
| 原油高による世界不況 | 徐々に低下 | 中期的に減益 |
最も蓋然性が高いのは、
2026年第2四半期の日額約5.9万ドルからは低下するが、戦前の平常水準よりは高い「第二の高原」に移行する
という展開です。
既に第3四半期の確定済み単価が日額約3.86万ドルであることから、当面は日額3万~4万ドル台を中心とした高収益環境が続く、という見方が現実的です。ただし、これは予測レンジであって会社予想ではありません。
TRMDの業績に対する評価
TRMDには三つの強みがあります。
第一に、約100隻規模の船隊を持つため、市況上昇を広く取り込めます。
第二に、プロダクトタンカー主体なので、原油の供給停止そのものよりも、製油所間の需給不均衡と輸送距離の長期化から利益を得やすい構造です。
第三に、高収益時のキャッシュを配当として株主へ還元するため、戦争長期化が続けば高配当が継続する可能性があります。
一方、配当は固定ではありません。仮に第3四半期以降のTCEが第2四半期比で35%程度低下するなら、単純比例では1株配当も2.40ドルから1.5~1.7ドル程度へ低下し得ます。実際には稼働日数、売船益、負債返済、船舶投資によって変わるため、これは感応度の目安です。
最終判断
イラン戦争がトランプ政権中に進展しない場合、TRMDにとって基本的には追い風です。しかし、その追い風の本質は「戦争そのもの」ではなく、
危険によって航路が長距離化・非効率化する一方、石油製品の輸送自体は続くこと
にあります。
したがって、私の判断は次のとおりです。
タンカー用船料は平時より高止まりする可能性が高い。ただし、TRMDの2026年第2四半期は戦争初期の混乱による突出した利益であり、同水準の配当が毎四半期続くとは見込まない方がよい。
TRMDに最も有利なのは戦争の全面激化ではなく、「解決しないが、船は動く」という長期的な膠着状態である。
投資上は、年率換算9.60ドルの配当を基準にするより、年間配当を5~7ドル程度まで割り引いて評価する方が安全です。それでも株価が30ドル台半ばなら高い現金利回りになりますが、その利回りは戦争リスクを引き受ける対価でもあります。


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