引当金はなぜ損金にならないのか――会計と法人税の違い

税務会計

法人税法の引当金繰入で最も念頭に置くべきことは、「会計上、当期の費用とする合理性があること」と「税法上、当期の損金に算入できること」は別の判断であるという点です。

この違いを、正・反・合の弁証法によって論じます。

正――将来の負担を当期に織り込むことには、会計上の合理性がある

企業の当期の活動は、当期中に支払いが済む費用だけで成り立っているわけではありません。従業員の勤務は将来の賞与や退職給付につながり、商品の販売は将来の保証修理につながり、信用取引は貸倒れの危険を伴います。

これらをすべて実際の支出や損失が生じた年度の費用とすれば、当期の利益を過大に表示し、将来の利益を過小に表示する可能性があります。

そこで会計は、将来の特定の費用・損失について、当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もれる場合などに、引当金を計上します。

この立場から見ると、引当金は単なる利益圧縮ではなく、当期の活動が生み出した将来の負担を、当期の利益に反映する仕組みです。

反――合理的な見積りでも、そのまま課税所得を減らせるとは限らない

しかし、将来の負担を見積もる余地を広く認めれば、企業ごとの予測や判断によって課税所得が左右されます。同じ経済状況の企業でも、慎重な見積りをする企業ほど税負担が小さくなるとすれば、課税の公平性や検証可能性が損なわれます。

この観点から税法の仕組みを理解すると、引当金の制限は、会計の合理性を否定するというより、税負担を決めるために、費用認識の条件を絞るものと考えられます。

販売費・一般管理費などの償却費以外の費用については、別段の定めがあるものを除き、期末までの債務確定が必要です。基本通達は、①債務が成立している、②具体的な給付の原因となる事実が発生している、③金額を合理的に算定できる、という三つの要件を示しています。合理的に見積もれるだけでは足りません。nta.go.jp

もっとも、「税法は見積額を一切認めない」と理解するのも誤りです。当期の収益に対応する売上原価等には適正な見積りが認められる場合があり、貸倒引当金にも明文の制度があります。判断すべきなのは、見積りか否かだけでなく、費用の性質と適用される規定です。nta.go.jp

合――会計では必要な引当てを行い、税務では認められる範囲を別に判定する

両者を統合する実務は、会計と税務をそれぞれの目的に従って処理し、その差を申告書で調整することです。

一般的な事業会社では、次のように整理できます。

項目会計上の計上と税務上の損金算入の関係
貸倒引当金税法上の対象法人・対象債権・繰入限度額・損金経理等の要件を満たす範囲で算入
賞与引当金将来の賞与の見積計上だけでは原則として算入不可。未払賞与については別途の要件を判定
退職給付引当金将来の退職給付の見積計上だけでは原則として算入不可
修繕引当金・製品保証引当金など会計上の繰入れだけでは原則として算入不可。実際の費用等について適用規定を判定

例えば、使用人賞与は、対象者全員への各人別の金額通知、期末翌日から1か月以内の通知額の支払い、通知年度での損金経理などの要件を満たせば、通知年度に損金算入できる場合があります。これは、単なる賞与引当金の見積計上とは区別すべきものです。nta.go.jp

この整理から、実務上は次の点が重要になります。

① 貸倒引当金は「中小法人なら自由に積める」制度ではない

対象法人への該当性に加え、債権の種類、個別評価・一括評価の区分、限度額、損金経理、申告明細を確認する必要があります。完全支配関係のある他の法人への債権などは対象外です。個別評価の限度超過額を、一括評価の未使用枠に振り替えることもできません。nta.go.jp

② 損金経理は、要件の一つであって、損金算入の保証ではない

貸倒引当金では、会計上の繰入額が税務限度額以下なら、その繰入額が損金算入の上限になります。逆に、多く繰り入れても、限度超過額は損金になりません。

したがって、「費用計上したから損金になる」「限度額があるから申告書だけで全額控除できる」という双方の誤解を避ける必要があります。nta.go.jp

③ 繰入時の否認だけでなく、取崩時まで追跡する

例えば、賞与引当金100万円を計上し、税務上全額を否認した場合、繰入年度では原則として別表四で加算・留保し、その差額を別表五(一)で管理します。

翌年度に、引当金を直接取り崩して賞与を支払い、その賞与が税法上の損金算入要件を満たすなら、会計上はその年度の費用に出ていなくても、税務上は対応する減算が必要になります。戻入益として処理した場合にも、過去の否認額との対応を確認します。

取崩時の調整を忘れると、会計では費用にしたのに、税務では結局一度も損金にならない事態が生じます。

④ 損金不算入は、永久に損金にならないという意味とは限らない

引当金の否認は、多くの場合、費用・損失を認識する年度の違いです。ただし、実際に支出した費用にも独自の制限があります。例えば役員退職金は、原則として株主総会の決議等によって具体的な金額が確定した年度が損金算入時期となり、適正額などの判断も必要です。nta.go.jp

引当金を考える際の中心的な問いは、「将来いくら必要か」という会計上の問いと、「どの規定により、いつ、いくら損金にできるか」という税務上の問いを、両方持つことです。繰入れから取崩しまで一貫して管理してこそ、慎重な利益計算と適正な課税所得計算を両立できます。

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