人工的に作った金が、必ず消えるわけではない。CERNでは、高速で飛ぶ金の原子核が装置に衝突して砕ける。一方、マラソン・フュージョンが目指す金197は安定しており、課題は放射性の副産物の混入にある。原子の仕組みから、両者の違いを解説する。
まず、「人工的に作った金は、金のまま維持できない」という理解は、二つの事例を分けて考える必要があります。
| 事例 | 実際に問題となること |
|---|---|
| CERNの鉛から金への変換 | 生まれた金の原子核が猛烈な速さで飛び、装置に衝突して砕ける |
| マラソン・フュージョンの水銀から金への変換 | 目的は安定した金。ただし、放射性の物質も混ざることが課題 |
① そもそも、「金である」とは何か
すべての物質は「原子」という非常に小さな粒からできています。その中心には「原子核」があり、原子核は主に次の二つの粒で構成されています。
- 陽子:数によって元素の種類が決まる。
- 中性子:同じ元素でも、数によって原子核の安定性などが変わる。
元素を区別する決め手は、色や硬さではなく、原子核にある陽子の数です。
| 元素 | 陽子の数 |
|---|---|
| 金 | 79個 |
| 水銀 | 80個 |
| 鉛 | 82個 |
したがって、鉛の原子核から陽子を3個取り除けば、金になります。CERNは、この変換を観測しました。CERN
なお、金を溶かして液体にしても、陽子の数は変わらないので金のままです。「固体の形を保てないこと」と「金という元素でなくなること」は別の問題です。
② CERNの金が短時間でなくなるのは、猛烈な速さで壁にぶつかるから
CERNでは、鉛の原子核を、ほぼ光の速さまで加速します。鉛の原子核同士が非常に近くをすれ違うと、強烈な電磁的作用によって陽子などが飛び出し、金の原子核ができます。
ところが、できた金の原子核も、そのまま猛烈な速さで飛び続けます。
その先で装置の管や、粒子を受け止める部品に衝突すると、原子核そのものが砕け、陽子・中性子などになります。CERNが「ごく短時間しか存在しない」と説明している直接の理由は、この衝突です。CERN
たとえるなら、走行中の超高速の車の中で品物を作れても、その直後に車ごと壁へ激突してしまうような状況です。
ただし、原子核が砕けるほどの衝突なので、普通の金塊をハンマーでたたく話とは桁が違います。金塊を細かく砕くだけなら、一粒一粒の原子は金のままです。
③ マラソン・フュージョンの目的は、「金のまま残る金」
こちらの主要な反応は、次の順序です。
水銀198 → 水銀197 → 金197
「198」「197」は、陽子と中性子の合計数を表します。
まず、水銀198に高エネルギーの中性子を当て、中性子が正味1個少ない水銀197を作ります。その水銀197は不安定で、原子核内の陽子1個が、電子を取り込む反応によって中性子に変わります。
すると陽子が80個から79個になるため、金197になります。この金197は安定しており、普通の天然の金と同じ種類の原子核です。人工的に作られたことを理由に、水銀へ戻るわけではありません。Alchemy
つまり、この方法ではむしろ、**「不安定な水銀が変化し、安定した金になる」**という性質を利用しています。
④ では、「不安定な金」とは何なのか
陽子が79個あれば金ですが、中性子の数によっては、原子核が不安定になります。こうした、同じ元素で中性子の数が違うものを「同位体」といいます。
原子核の中では、粒を結び付ける力などが働いています。陽子と中性子の組合せによっては、その状態を保つよりも、粒子や放射線を出して別の状態になる方が安定します。これが放射性崩壊です。
マラソン社の方法でも、目的の金197だけができるとは限りません。別の反応によって放射性の同位体も生じるため、生成物の放射能を管理し、十分に低くなるまで保管することなどが課題になります。marathonfusion.com
ここで大切なのは、放射性の物質が混ざっているからといって、安定した金197まで一緒に崩壊するわけではないという点です。
したがって、**CERNでは「高速衝突で原子核が壊れる」、マラソン社では「安定した金は残るが、放射性の副産物が混ざる」**です。この二つを分けると、「金を維持できない」という話の意味がはっきりします。


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