1974〜1976年:最初の大幅調整(約50%下落)
- ピークと下落幅:ブレトンウッズ体制の終焉後、金は自由相場となり数年で急騰した。国際通貨基金(IMF)の報告によると、1974年末には金価格は1トロイオンス200ドル近くまで上昇したが、その後急落し1976年8月にはほぼ100ドルまで下落した。下落率は約50%である。これは大きくなりすぎた投機ポジションの巻き戻し、インフレの鎮静化、米国での金所有解禁による需要予測が外れたことなどが原因とされる。
- 下落後の推移:1976年末には需要が回復し、金は再び上昇を始めた。英Yahooの歴史記事では、価格が1976年に100ドル付近まで落ち込んだ後、1977年初めには150ドルを突破し、1970年代後半には中東やアジアからの需要増や米国の緩和期待が金価格を押し上げたと説明している。この反転をきっかけに金は物価上昇やイラン革命などの地政学的リスクを背景に急騰し、1980年1月には約850ドルまで上昇した。つまり1976年の底は次の大相場の起点になった。
1980〜1982年:高金利政策による急落(約57%下落)
- ピークと下落幅:金は1980年1月に約850ドルの史上最高値(当時)を付けたが、その後パニック的に下落した。金投資のコンサルティング会社Auronumの分析によれば、1980年9月22日に金は711ドル/オンスまで再び上昇した後、1982年6月23日には304ドルまで落ち込み、ピークからの下落率は**57.24%**に達した。
- 要因:インフレを抑制するため米連邦準備制度理事会(FRB)のポール・ボルカー議長が政策金利を20%近くまで引き上げ、高い実質金利により金の機会費用が急増したことが主因である。
- その後の推移:利上げが続く1980年代から90年代初頭にかけて金は長期低迷に入った。JM Bullionの価格史では、1980年9月の651ドルから1982年6月の305ドルへの下落後、1980年代は300〜500ドルのレンジで推移し、1990年2月時点の金価格416.65ドルはこの10年間の値動きの中央値であったと記されている。その後も金は下落基調を続け、1999年には250ドル台まで落ち込んだ(次節参照)。
1980〜1999年:長期ベアマーケット(約70%下落)
- ピークと下落幅:GoldSilver.comの歴史解説では、ボルカーの高金利政策後も金は安値更新を続け、1980年の850ドルから1999年8月には252ドルに下落したと述べている。これは約70%の減価で、ニクソン・ショック以降最大の下落である。
- 要因:高金利によるドルの強化に加え、欧州中銀などの金売却やテクノロジー株ブームによる代替投資先の出現が需要を減らした。
- その後の推移:1999年以降、ITバブル崩壊や同時多発テロ、低金利政策によって金の需要が回復した。Vaultedの分析記事によれば、2001年には254ドルだった金価格が2007年には844ドルに上昇し、その後の金融危機でさらに買われ、2011年9月には1921ドルへ達した。20年に及んだベアマーケットの底値はその後の強気相場の出発点になった。
1990〜1999年:景気好調期の下落(約39%下落)
- ピークと下落幅:JM Bullionのデータによると、1990年2月15日の金価格416.65ドルが1990年代の最高値であり、6年後の1996年2月2日に414.50ドルの二番天井を付けたが、1999年7月13日には254.65ドルに低下した。ピークからの下落率は約39%である。
- 要因:この時期は米国経済が好調で財政黒字が生じ、インフレ率が低下したこと、欧州中央銀行による金売却、そしてインターネット関連株の大ブームが金需要を減らしたことが背景にある。
- その後の推移:1999年のワシントン協定により欧州中銀の金売却が制限され、ITバブル崩壊と9/11テロの影響で安全資産需要が高まった。Vaultedの記事では、金は2001年の254ドルから2007年に844ドルへ上昇し、その後の世界金融危機を受けて2011年に1921ドルまで上昇したことが紹介されている。この上昇で1990年代の下落幅は完全に回復している。
2011〜2015年:金融危機後の調整(約45%下落)
- ピークと下落幅:Auronumによると、金は2011年9月5日に1998.99ドルという当時の史上最高値を付けた後、米国の量的緩和縮小や実質金利上昇、ETFからの資金流出を背景に下落し、2015年12月17日には1049ドルまで下がった。ピークからの下落率は**44.64%**である。
- 同様の指摘:GoldSilver.comは「2011年の高値から2015年後半には約1050ドルまで調整した」と述べ、2013年は1981年以来最悪の年(年間28%下落)だったと指摘している。世界経済フォーラムの記事も、強い米ドルとギリシャ支援策、中国の金準備への失望が重なり2015年には2011年ピークから約43%下落したと述べている。
- その後の推移:2016年以降、英国のEU離脱決定や米中対立など地政学リスクの高まりと超低金利により金は再び上昇に転じた。Vaultedのレポートでは、金は2020年8月に2075ドルを超えた後も高値圏を維持し、ロシアのウクライナ侵攻や中央銀行の積極的な金購入が相次いだ2024〜2025年にかけて新たな上昇波動を形成し、2026年1月には史上最高値を更新した。
2026年1月以降の調整:直近の26%超下落
- ピークと下落幅:2024〜2025年のインフレと地政学リスク、各国中央銀行の金購入が続いた結果、金は2026年1月29日に5,595ドル/オンスの史上最高値を付けた。しかし、その後米連邦準備制度の追加利上げ観測と米国債利回りの上昇、利益確定売りが重なり、6月11日にはスポット価格が4,023.95ドルまで下落した。これはピークから約26%の下落であることをGolden Ark Reserveが報じている。TradingKeyも、金が1月の高値約5,600ドルから4,100ドルを割り込むまでに26%以上下落したと述べている。
- 要因:米国の利上げやインフレ鈍化で金利の上昇が金の相対的魅力を削いだこと、株式市場の反発、投資家の利益確定売りが主因とされる。
- その後の推移:2026年6月中旬時点(本稿執筆時点)では、金価格は4,000〜4,500ドル台で推移しており、世界各国の中央銀行による買い需要や地政学リスクの継続が下支えしている。長期的な上昇トレンドは維持されており、金価格は依然として2025年初頭の価格を大きく上回っている。
歴代下落率の比較と2026年の順位
以下に、ニクソン・ショック(1971年)以後に観測された主なピーク→ボトムの下落率(25%超)をまとめる。百分比は近似値。1980年のピークから1999年までの長期下落と、その中で発生した短期急落を分けている。
| 順位* | 期間 | ピーク/ボトム (参考価格) | 下落率 | 背景・その後の推移 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 1980年ピーク→1999年低迷期 | 1980年1月の 約850ドルから1999年8月の252ドルへ | 約70% | ボルカー議長の高金利政策に加え、欧州中銀の金売却とIT株ブームが需要を削った。1999年ワシントン協定とITバブル崩壊で反転し、2001年から2011年までの強気相場へ。 |
| 2 | 1980年ピーク→1982年急落 | 1980年9月22日 711ドルから1982年6月23日 304ドルへ | 約57% | ボルカーによる20%近い政策金利で金の機会費用が急増し暴落。1980年代のレンジ相場を経て1990年代まで低迷。 |
| 3 | 2011年高値→2015年安値 | 2011年9月5日 1,998.99ドルから2015年12月17日 1,049ドルへ | 約45% | 量的緩和の縮小、米ドル高、金ETFからの資金流出により調整。2016年以降は英国のEU離脱や地政学リスクで反転し、2020年に2,075ドルを超え、2026年には5,595ドルへ。 |
| 4 | 1974年末→1976年8月 | 1974年末の約200ドルから1976年8月の約100ドルへ | 約50% | インフレ鎮静化と投機ポジション解消で暴落。その後需要回復により1977年には150ドルを超え、1980年に850ドルへ急騰。 |
| 5 | 1990〜1999年 | 1990年2月の416.65ドルから1999年7月の254.65ドルへ | 約39% | 米国経済の好調・ドル高・中央銀行の金売却、ITバブルで代替投資先が増えたため下落。2000年代初頭の金融危機で金は再び上昇し、2011年には1,921ドルまで伸びた。 |
| 6 | 2026年1月→2026年6月 | 2026年1月29日の5,595ドルから2026年6月11日の**4,023.95ドル(終値では4,100ドル近辺)**へ | 約26% | 米国の追加利上げ観測、金利上昇、利益確定売りが要因。6月時点では4,000〜4,500ドル台で推移し、中央銀行買いと地政学リスクが下支えしている。 |
* 順位はピークからボトムへの下落率の大きさに基づく。1980年の急落(57%)と1980年〜1999年の長期下落(70%)を別々のイベントとして数えた場合、2026年の調整は6番目である。両者をまとめて一つの長期下落と見なせば、2026年の下落は5番目となる。
おわりに
ニクソン・ショック以後の金市場では、高金利政策やドル高による需要減退が繰り返し大幅な調整を引き起こしたことが確認できる。もっとも、下落の後にはインフレ再燃や金融危機、地政学的緊張などをきっかけに必ず強気相場が到来している。2026年1月から6月にかけての約26%の調整は歴代5〜6番目の大きさであり、金が過去に経験した70%近い暴落に比べれば相対的に小さい。長期的には依然として上昇トレンドの途中にあり、世界的な金融政策や地政学情勢が今後の動向を左右すると考えられる。

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