**財務会計は「利用者の判断に役立つ情報」を目指し、法人税法は「各年度の納税義務を公平に確定すること」を目指す。この目的の違いが、少額の計上漏れに対する柔軟性の差を生みます。**ただし、「会計は自由、税法は一切の例外を認めない」という理解は正確ではありません。
弁証法として、合理化を肯定する立場、その限界を指摘する立場、両者を統合する立場から論じます。
正――少額の誤りに厳密な処理を求めることは、経済合理性を欠く。
中小企業の会計は、経営者が経営状況を把握し、金融機関などが財務状態を判断するために使われます。中小会計要領も、信頼性のある計算書類の作成と、経営への活用を重視しています。中小企業庁
例えば、前期の通信費100円の計上漏れを当期に修正しても、財務諸表の利用者の判断が変わらないなら、過去の決算を厳密に修正するための負担が、その効果を上回ることがあります。ここで重要性の原則が、情報の有用性と処理費用との均衡を図ります。
ただし、**継続性の原則は「同じ誤りを続ければ認められる」という原則ではありません。**合理的な会計方針を継続して適用するための原則です。また、重要性は金額だけでなく、誤りの性質や累積額も含めて判断するため、中小会計要領でも計上漏れを無条件に当期処理できるわけではありません。
それでも、「100円の誤りのために多大な事務を要求するのは本末転倒だ」という批判には、十分な合理性があります。
反――税額を決める場面では、企業ごとの合理性だけでは公平を守れない。
法人税法は、各事業年度の益金と損金から、その年度の所得を計算する制度です。会計処理を基礎としつつ、費用については債務確定などの税法上の条件を設けています。e-Gov 法令検索
期間帰属を厳格にする理由は、主に次の三つと考えられます。
| 理由 | 年度を自由に移せると生じる問題 |
|---|---|
| 納税者間の公平 | 正しい年度に計上した会社と、後から都合のよい年度に計上した会社で税負担が変わる |
| 利益操作の防止 | 赤字年度の費用を黒字年度へ移すなど、損金を使う年度を選択できてしまう |
| 法的な予測可能性 | 「少額ならよい」の基準が企業や担当者ごとに異なり、納税義務が不安定になる |
例えば、前期が赤字、当期が黒字なら、前期の費用を当期に移すことで、当期の税額を直接減らせる場合があります。欠損金の繰越しで調整できる場合でも、控除限度、繰越期限、税率などによって、年度を移す効果が同じになるとは限りません。
したがって、「複数年度の費用総額が同じ」ことと、「税負担が同じ」ことは別問題です。
国税不服審判所も、債務確定基準について、企業の任意の見積りによる恣意性を抑え、所得計算の客観性と課税の公平を確保する趣旨を説明しています。これは計上漏れそのものについての裁決ではありませんが、税法が会計上の裁量に制限を設ける理由を示しています。国税不服審判所
少額の漏れまで原則が及ぶのは、個々の100円を重大視するというより、「本来の年度に帰属させる」という共通の基準を、企業の自己判断だけで変更させないためです。
合――税法にも合理化は必要だが、その範囲は共通の条件によって決める。
実際、税法も重要性の原則を排除していません。
代表例が短期前払費用です。一定の条件を満たせば、将来の役務に対応する費用でも、支払年度の損金算入が認められます。国税庁は、これを企業会計上の重要性の原則に基づく処理を税務上も認めるものと説明しています。一方で、利益操作や課税上の弊害を防ぐため、継続処理などの条件を設けています。nta.go.jp
つまり、両者の違いは次のように整理できます。
財務会計では、利用者の判断への影響に応じて簡便化する。税務では、課税の公平を損なわない共通の条件の下で簡便化する。
このため、税務上前期に帰属することが明らかな通常の費用を、会計上当期の「前期損益修正損」として処理しても、その科目名だけで当期の損金にはなりません。前期の税額が過大、または繰越欠損金が過少になっていれば、原則として前期について更正の請求を検討します。nta.go.jp
もっとも、制度への批判としては、ごく少額の訂正に必要な事務費用が税額への影響を大幅に上回るなら、厳格さ自体が社会全体の非効率を生むという問題が残ります。少額誤りの訂正に、金額上限、累積額の管理、恣意的な年度移動の排除などを条件とした簡便制度を設けることには、政策上の合理性があります。
したがって、現行制度の厳格さには公平確保という理由がありますが、それが最適な制度であるとは限りません。会計の重要性と税法の公平性を統合する方向は、少額誤りを個々の企業の判断で許容することではなく、誰もが同じ条件で利用できる簡便な訂正制度を整えることです。


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