法人税の期間損益計算では、「どの年度の損金か」と「損金にするために何が必要か」を別々に確認することが大切です。未払でも損金になる費用がある一方、実際の支払や決算での費用計上が必要なものもあります。
なお、ご質問の減価償却について、法人税では「必要経費算入」ではなく、「損金経理」が損金算入の要件という表現になります。損金経理とは、確定した決算において費用・損失として経理することです。
まず押さえるべき債務確定の原則
一般の販売費・管理費などは、原則として決算日までに次の3条件を満たす必要があります。
- 費用に係る債務が成立している。
- 支払義務の原因となる事実が発生している。
- 金額を合理的に算定できる。
例えば、決算日までに修繕が完了し、金額を客観的に見積もれるなら、請求書が翌期に届いても未払計上できます。請求書の到着日や支払日だけで年度を決めないのが基本です。ただし、この債務確定の要件を、減価償却費や売上原価などに一律に当てはめることはできません。nta.go.jp
実務で確認したい事項をまとめると、次のようになります。
| 項目 | 計上時期・損金算入要件 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 一般の未払費用 | 決算日までに債務確定の3条件を満たす部分を当期損金にする | 発注・契約しただけでは不足。翌期に行う作業を当期の未払費用にしない |
| 会社負担の社会保険料 | 健康保険料・厚生年金保険料は、計算対象となった月の末日が属する年度に損金算入できる | 翌月の引落しまで待つ必要はない。本人負担分は会社の法定福利費にしない |
| 労働保険料 | 概算保険料の会社負担分は、申告書提出日または納付日の属する年度に損金算入 | 社会保険料と同じ月次ルールではない。確定保険料の不足・超過にも別の取扱いがある |
| 中退共・一定の企業年金掛金等 | 原則として現実の納付・払込みが必要 | 未払計上だけでは損金算入できない |
| 減価償却費 | 原則として、償却費として損金経理した金額のうち、税務上の償却限度額まで | 帳簿で償却せず、申告書で減算するだけでは原則不可 |
| 少額減価償却資産の即時損金算入 | 制度ごとの金額・対象法人等の要件に加え、事業供用年度の損金経理などが必要 | 買った日と使用開始日は別。中小企業者等の特例には明細書添付も必要 |
| 前払家賃・保守料等 | 原則として、役務提供を受ける期間に配分 | 支払済みでも翌期分は原則として前払費用 |
| 短期前払費用 | 支払日から1年以内に提供を受ける継続的役務について、継続適用などの条件で支払年度の損金にできる | 未払では使えない。「契約期間が1年」というだけでは足りない |
| 消耗品 | 原則は消費した年度。一定数量を経常的に購入・消費するものは、継続して購入年度に損金算入する取扱いがある | 決算直前に大量購入した未使用品を当然に全額損金としない |
社会保険料・労働保険料・掛金については、法人税基本通達9-3-1~3にそれぞれ異なるルールがあります。nta.go.jp 減価償却・少額資産については、損金経理と制度固有の要件を確認します。e-Gov 法令検索 前払費用・消耗品にも、原則と継続適用による取扱いがあります。nta.go.jp
給与・税金・損失には、さらに個別ルールがあります。
| 項目 | 気をつける事項 |
|---|---|
| 使用人の決算賞与 | 未払賞与を当期損金にする代表的な方法では、対象者全員への各人別通知、決算日の翌日から1か月以内の通知額の支払、当期の損金経理が必要。支給日在職条件を付けた通知は、この要件上の通知に該当しない |
| 役員報酬・役員賞与 | 債務確定だけでは足りず、定期同額給与・事前確定届出給与等の要件も必要。利益が出たから決算で追加報酬を計上しても、当然には損金にならない |
| 法人税・法人住民税等 | 本税は損金不算入。未払計上しても損金にはならない |
| 法人事業税・特別法人事業税 | 原則として申告書提出年度の損金。決算で当期分を見積計上した年度と、税務上の損金年度がずれる |
| 固定資産税等 | 原則は賦課決定年度。納期開始年度または実際の納付年度に損金経理する取扱いもある |
| 貸倒損失 | 法的な債権切捨て、全額回収不能、一定の取引停止後の売掛金等で要件が異なる。「回収が不安」という見込みだけでは足りず、類型によって損金経理も必要 |
賞与と役員給与は、一般の未払費用とは別に判定します。nta.go.jp 税金は税目ごとに損金算入の可否・年度が異なり、貸倒損失にも個別要件があります。nta.go.jp
8月決算の会社なら、特に次の違いが実務上重要です。
- 8月分の会社負担社会保険料:9月に納付する場合でも、8月末の決算で未払計上して損金算入できる。
- 8月末までに完了した修繕:請求書が9月に届いても、債務確定の条件を満たせば8月期の損金になる。
- 8月期分の法人事業税:9月に申告するなら、原則として翌事業年度の損金になる。
同じ「翌月に金額が判明・支払」という状況でも、費目によって年度が違います。nta.go.jp
資産管理会社では、期末をまたぐ有価証券売買も要確認です。譲渡損益は原則として約定日に計上します。継続して受渡日で処理する取扱いを採用していても、期末時点で未受渡しの取引はその取扱いから除かれるため、期末調整が必要です。nta.go.jp
最後に、計上漏れが見つかったときは、「通常費用の過年度計上漏れ」と「減価償却の未償却」を区別してください。通常費用は本来の帰属年度の問題になる一方、減価償却は損金経理額・償却限度額の問題です。前期に償却しなかった金額を、当期にまとめて自由に損金算入できるわけではありません。nta.go.jp
決算では各項目について、①帰属年度、②損金経理の要否、③実際の支払の要否、④通知・届出・明細書等の要否を確認すると、見落としを減らせます。


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