一般株式等の譲渡損失は、なぜ「表示される」のに「なかったもの」とされるのか

税務会計

一般株式等に係る譲渡所得等の計算上生じた損失は、確定申告書上ではマイナスの金額として把握・表示される。

ところが、課税標準を計算する段階では、その損失は「生じなかったもの」とみなされ、給与所得、不動産所得、事業所得などから控除できない。

これは一見すると矛盾している。しかし、この矛盾は、所得税法が「経済的損失の把握」と「税負担への反映」を別の段階として構成していることから生じる。


【正】株式の譲渡損失も、現実に発生した所得計算上の損失である

例えば、非上場株式を500万円で取得し、300万円で譲渡した場合、経済的には200万円の損失が発生している。

一般株式等に係る譲渡所得等の内部では、収入金額から取得費や譲渡費用を控除し、所得金額を計算する。

[
300万円-500万円=-200万円
]

このマイナス200万円は、単なる記載上の数字ではない。一般株式等に係る譲渡所得等の金額を計算した結果として、実際に認識された損失である。

また、同一年中に別の一般株式等について譲渡益が生じていれば、一般株式等という同一グループの内部で相殺できる。

例えば、

  • A社非上場株式の譲渡益:300万円
  • B社非上場株式の譲渡損失:200万円

であれば、一般株式等に係る譲渡所得等の金額は、

[
300万円-200万円=100万円
]

となる。

したがって、「損失がなかったものとみなされる」とはいっても、個々の譲渡損失が最初から存在しなかったことになるわけではない。

損失は、まず一般株式等という閉じられた計算領域の内部で認識される。


【反】しかし、その損失を他の所得まで侵食させることは認められない

問題は、一般株式等の内部で相殺しても、なお損失が残る場合である。

例えば、

  • 給与所得:800万円
  • 一般株式等に係る譲渡損失:200万円

であったとしても、課税対象となる所得を単純に600万円とすることはできない。

租税特別措置法37条の10は、一般株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失について、所得税法令の適用上「生じなかったものとみなす」という構造を採っている。

そのため、一般株式等の譲渡損失は、給与所得、不動産所得、事業所得などとの損益通算には利用できない。国税庁も、申告分離課税の株式等の譲渡損失は、株式等以外の所得とは損益通算できないと説明している。国税庁「No.2250 損益通算」

さらに、原則として次の相殺もできない。

相殺の組合せ可否
一般株式等の利益-一般株式等の損失可能
一般株式等の損失-上場株式等の利益不可
一般株式等の損失-上場株式等の配当不可
一般株式等の損失-給与・事業・不動産所得不可
一般株式等の損失の翌年以後への繰越し原則不可

国税庁通達も、一般株式等の譲渡損失を上場株式等の譲渡所得から控除できず、逆方向の控除もできないことを明示している。国税庁「株式等に係る譲渡所得等関係の取扱い」


【合】「表示」と「控除」は、異なる計算段階に属する

この矛盾は、所得税の計算を二つの段階に分けると解消する。

第一段階――所得事実の認識

まず、一般株式等の譲渡について、収入、取得費、譲渡費用を基礎として損益を計算する。

この段階では損失も現実の計算結果であるから、マイナスの金額として把握・表示される。

第二段階――課税標準への接続

次に、その所得金額を他の所得と合算し、課税標準を形成する。

ところが、一般株式等の譲渡所得等は申告分離課税という独立した領域に置かれている。その領域内の最終結果がマイナスであっても、そのマイナスを総所得金額等に持ち込むことは遮断される。

したがって、「なかったものとみなす」という言葉の正確な意味は、

経済的損失そのものを否定するのではなく、その損失に他の所得を減少させる課税上の効力を与えない

ということである。


計算例

次の所得があるとする。

  • 給与所得:800万円
  • 一般株式等の譲渡益:100万円
  • 一般株式等の譲渡損失:300万円

まず、一般株式等の内部では、

[
100万円-300万円=-200万円
]

となる。

したがって、一般株式等に係る譲渡所得等の計算結果としては、200万円の損失が表示される。

しかし、課税標準の計算では、このマイナス200万円を給与所得から控除できない。

[
800万円-200万円=600万円
]

とはならず、一般株式等に係る課税標準はゼロ、給与所得は800万円のまま計算される。

つまり、

[
\text{所得計算上の損失}=-200万円
]

である一方、

[
\text{課税標準に算入される一般株式等の金額}=0円
]

となる。


上場株式等の損失との違い

上場株式等の譲渡損失については、一定の要件を満たして確定申告をすれば、

  • 申告分離課税を選択した上場株式等の配当等との損益通算
  • 翌年以後3年間の繰越控除

が認められる。

これに対して、一般株式等の譲渡損失には、原則としてこの救済措置がない。一般株式等と上場株式等は、同じ「株式」でありながら、別々の課税領域として分断されているのである。

ただし、エンジェル税制における特定投資株式の譲渡損失など、特別な規定が適用される場合は例外があり得る。


結論

一般株式等に係る譲渡損失は、所得金額の計算過程では現実の損失として認識される。そのため、申告書上もマイナスの金額として表示され得る。

しかし、一般株式等という独立した計算領域を越えて、給与所得や事業所得、上場株式等の利益などを減少させることは認められない。

したがって、この制度の本質は、

損失を事実としては認識するが、一般株式等の領域外に対する税額減少効果を否定する

という点にある。

「表示される損失」と「なかったものとみなされる損失」は矛盾しているのではない。前者は所得計算上の事実認定であり、後者は課税標準への接続を遮断する法的評価なのである。

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